魔のカーブ(1)

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冒頭からいきなりの警告で恐縮だが、この話はマジで怖い。なので本音で「怖い話はちょっと……」という人は、今回は敬遠した方がいいかもしれない。ぼく自身が体験したことではなく友人の話なので、どこまでが真実なのか、それはわからない。また話に若干の尾ひれがついている可能性も考えられる。しかしこの話を語った友人は文系ではなく理系の男であり、話を誇張して語るような男ではなく、むしろ正確に語ろうと努力するタイプであることはぼくが保証する。なのでぼく自身は真実の話であろうと思っている。しかし真実だとは思いたくないような不気味な話ではある。

友人の名前を仮に文雄としておく。

文雄にはすぐ近所に幼なじみがいた。勝也という名前で、文雄よりひとつ下だった。ふたりには共通点があった。ふたりともひとりっ子・両親が共働き・団地住宅だった。そしてふたりとも内向的な性格で、友達は少なかった。
ふたりは性格も体型もよく似た少年だったが、中学生になった頃から、生活環境が異なってきた。文雄は地学部に入り、岩石や化石の標本採集や分類に没頭するようになった。勝也はギターを手に入れて練習し、作曲を始め、バンド活動をするようになった。しかしバンド仲間と夜遊びをするようになり、深夜のコンビニで万引を繰り返し、警察にマークされるような少年になってしまった。心配した文雄は何度か勝也に会って交友関係を注意したのだが……「俺のことはほっといてくれ。化石でも掘ってろ」といった調子で、いつもひどい言葉と共に追い返された。悔しく情けない気分だったが、そうこうしているうちに、文雄には同じ地学部で彼女ができた。文雄はそっちに夢中になり、勝也とはすっかり疎遠になってしまった。

高校進学でふたりの進路は大きく隔たった。文雄は公立高校に入学し、そこでも地学部に入った。勝也は公立高校受験に失敗し、私立高校にも入れず、居酒屋でアルバイトを始めた。どのような経過でそうなったのかわからないが、貯金を貯めて中古のスポーツカーを買った。ふたりの家はやはり近所だったが、毎日の生活はもう全く違う人生だった。文雄は毎日自転車で通学し、夕方には自宅に戻って大学の受験勉強をするようになった。勝也は夕方に自宅を出て近くの駐車場からスポーツカーを引き出し、居酒屋で働き、深夜から明け方まで暴走族まがいの走行を楽しんだ。ふたりの人生が交差することはもうないように思われた。ところが……。

夜の8時に電話がかかってきた。警察からだった。文雄に用事があるらしい。受話器をとった母親は仰天した。すごい剣幕で文雄の部屋に走ってきて、「いったいなにがあったの?」と問い詰めた。しかし電話の内容に見当もつかない文雄に、そんなことがわかるはずもない。母親をなだめつつ受話器をとった文雄は、警察の話を聞いて驚いた。留置場に入っている勝也が、文雄だけに会って話をしたいというのだ。
「あいつはなにをしたのです?」
相手は不気味なほど無表情な声だった。
「バスの転落事故現場に行って、自分も車ごと転落しようとしたらしいです」
すぐには理解できなかった。
「自分も車ごと転落?」
遠い国の交通事故をテレビ画面で見ているような、画面では見えない客席からクスクスと笑い声が聞こえてくるような……それほど実感のない奇妙な話だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・( つづく )
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