魔のカーブ(2)

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前回の話ですでにお気づきかもしれないが、スポーツカーを乗り回していた勝也は、じつは無免許だった。勝也が17歳であることも、彼が無免許で車を走らせていることも、文雄は知っていた。「なんでもう1年待てないのか」と思ったし、勝也の生活が徐々に脱線し犯罪の方向へスピードを速めているように思った。
しかし文雄にとって勝也はもう「どうでもいいヤツ」だった。特に会いたいとも思わなかったし、あんなヤツ、警察に捕まろうが、留置場にぶちこまれようが、自分にとってはなんの関係もない。あいつはあいつの人生だ。自分で責任をとったらよかろう。そんなふうに思っていたし、そんなふうに思うしかなかった。ところが……

留置場の勝也が「文雄に会いたい」と警察に言ったらしい。会って話したいことがあるらしい。驚くほかなかった。「両親とか、だれか身内の大人と一緒に来ていただくことになりますが……」と警察は言い、「まあ参考程度ということで……」と前置きして、文雄と勝也の関係について聞いてきた。文雄はなんと答えていいのか分からず、そのとおりの気持ちをただ伝えた。しかしともあれ、勝也に会って話は聞いてやろうという気分になっていた。ところが……

文雄の母親がそれを許さなかった。よりにもよって警察から息子に電話がかかってきた、というただそれだけのことで母親はすっかり動転していた。父親が在宅であれば、母親の動揺も少しは緩和されたかもしれない。しかしその夜は父親は出張中で、もう数日たたないと帰宅しなかった。動転しきっている母親は泣くやらわめくやらで、文雄にもお手上げだった。
文雄はいますぐにでも「とりあえず勝也の家に行ってみよう」という気分だったが、母親の様子を見て断念した。勝也に対して申し訳ない気分だったが、その一方で、半狂乱になっている母親を眺めつつ、こんなトラブルをわが家に持ちこんだ勝也にいささか腹を立てていた。しばらく警察の厄介になるのかさっさと釈放されるのかわからないが、「少しは頭を冷やしたらよかろう」という気分だった。

文雄は結局家を出なかった。その次の日も母親との約束を守り、学校から真っ直ぐ帰宅した。警察か勝也の親から電話でもあるかと思ったが、そのどちらからも電話はなかった。

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その夜。文雄はいつものように受験勉強していたが、強烈な睡魔に襲われた。時計を見ると午後11時を回っていた。母親はいつも10時半になると風呂に入り、11時にはもうベッドで眠っている。寝つきのよい彼女は、いまごろはもう爆睡だろう。
「勝也のおかげで……昨夜はえらい剣幕の母さんだったな」と文雄は思った。昨夜の疲れが自分にも出ているように思った。
「……しかたがない」と文雄は思った。今夜の受験勉強はあきらめた方がよさそうだった。「今日はもう寝よう」と思った。
席を立ち、風呂に行こうとしてドアを見たら……その脇に勝也が立っていた。
現実の彼でないことは、すぐにわかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・( つづく )
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