魔の絵本(8)エドワード・ゴーリー著「優雅に叱責する自転車」

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ホテル暴風雨からじつに筆者好みの主題をいただいたおかげで、7回もかけてゴーリー談をしてしまった。……とはいえ「そろそろ潮時か」といった感もあり、今回の8回目で最終回としたい。次回から正道魔談に復帰し、いまの季節にふさわしいマジコワ談を展開する用意をすすめている。

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さて「優雅に叱責する自転車」談最終回。前回のラストシーンでも語っているが、「この絵本のこの表紙ほど不可解な絵本表紙は、ちょっとない」と言ってもよいぐらいの怪表紙である。ひととおり中身を見た後で改めて表紙タイトルを眺めても、よくわからない。表紙ビジュアルを眺めても、ますますよくわからない。そんなけったいな絵本は、ちょっとない。

「……だから真面目に受け止めて考えるような絵本じゃないってば!」という暫定結論にとりあえず落ちつき、「……ったくゴーリーめ!」といった感じでそのあたりにポイッとほっておくのが一番いいのかもしれない。またこの絵本の妙にコンパクトなサイズときたら、まさにそうした「そのあたりにポイッとほっておく」のにちょうどいいサイズである。まさかゴーリーがそこまで計算してこのサイズにしたとは到底思えないが、しかしハーバードでフランス文学を修めた秀才であり、たくさんの私家版を出版して熱狂的コレクターを獲得した鬼才である。そのような「本にこだわった男」にとって「自分が生み出した絵本のサイズ」がどうでもよかろうハズはない。悪魔も手をたたいて喜ぶような奇怪な計算により、このサイズに決まったのかもしれない。

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「私はワニと自転車の物語なんだと思います」とゴスロリが言った。
「出た途端に死ぬワニなのに?」
「そう」
「根拠は?」
「表紙にいるから」
「……なるほど」

彼女の説はこうである。表紙からすでに物語は始まっている。本文の話が始まる以前に、そもそもワニと自転車は仲良しだった。表紙のワニは仰向けに乗っているが、その表情をよくよく見ると、微妙に笑っている。つまりこれは自転車とじゃれあっているのだ。その後ワニと自転車は分かれ、自転車は妙な2人を乗せて走ることになった。

「……で、ワニはその仲間に加えてほしいと?」
「そう」

ところが自転車に乗った妙な2人は、いとも簡単にワニを殺してしまった。

「……ははあ、読めた。それでこの話の意外な結末は、自転車が彼らにあたえた罰だと?」
「そう」
「うーむ」

面白い解釈もあったものだと思う。ゴスロリは棺桶バッグから「優雅に叱責する自転車」を出してカルーアミルクの脇に置いた。筆者はなにげなくその表紙を見て「あっ」と驚いた。なんと反対側から表紙を見ると、ワニが自転車を乗せているように見える。しかもただ乗せているだけではない。ワニの下にはまるで自転車の車輪のように小さなクツが回転しているではないか。

「このたくさんのくつはいったいなんだと思う?」
「そこなんですよ!」

彼女は目をキラキラと輝かせている。よほどこういう謎解きが好きなんだろう。
「このお話の本当のラストは、裏表紙の絵が示していると思うのです」
「ふむ。……それで?」
「でも一番よくわからないのが、この裏表紙なんです」

ふたりとも笑った。

…………………………………………………( 完 )

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