魔 談【 魔の工房3】

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「まるで入社試験だな」と苦笑しそうな図だった。我々3学生と対面して4人の男がずらりと並んだ。「いかにも現場関係」といった作業着男が2人。「いかにも大学関係」といったワイシャツ男が2人。
ワイシャツ組は「アラウンド50中年」と「アラウンド70初老」で、2人とも眼鏡をかけている。それぞれスパッと名刺を出した。いかにも名刺を出すタイミングに手慣れた感じ。「まずは名刺をとくと御覧あれかし」と言わんばかりの所作には、「肩書きを頭に入れてから以後は物を言え」と言わんばかりの水戸黄門的自尊心が見え隠れしている。案の定というか若い方はA大学の助教授で、初老の方はB大学の教授だった。ちなみに最近では「准教授」という言葉がもっぱらで「助教授」という言葉はすたれつつある。しかしこの話の時代では「助教授」のみだったので、このままそう呼びたい。

大学関係とは対照的に、2人の現場関係は同席しているだけでほとんど口をきかず名刺も出さず、柔和な笑みは浮かべているものの最初から「こういうのは我々は基本的に関知しない。ただココにいるだけ」といった態度。もっぱら助教授が我々に質問をしてきた。教授もほとんど口をきかなかったが、こちらは現場関係とちがって我々3人の返答や態度に興味を持っていることは明らかで、時々軽くうなずいたり、「ほほう」とか「うむ」といった軽い相槌を打っていた。

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白いワイシャツの胸ポケットに小型手帳と赤と黒のボールペンを無理矢理ねじこんだ助教授は、もうそのパンパンに膨らんだ胸ポケットを眺めただけで「この人はナリフリ構わないタイプだな」と思わせるような男で、小柄だがカッチリとまとまった体格だ。クラーク・ケントのような黒ブチのがっちりした眼鏡をかけている。学生時代にはなにかスポーツをしていたのかもしれない。ラグビーボールを拾わせたら、押し寄せるマッチョ男たちの間をスルスルと器用にすり抜けてまんまとトライするような感じ。さすがに学生に対しての対応にもいかにも手慣れた態度で、次々に質問してくる。

そんな彼の目から見て、ダザイは真っ先に「問題あり」という旗がピッと立ったのかもしれない。なにしろダザイはビアズリーのように痩せた男だったので、このバイトは体力的にもたないと思ったのだろう。助教授から見て一番右端に着席していたダザイにまず質問するという図は順番的にも少々おかしいと思ったのだが、まずはこの「問題あり」から質問をぶつけてみて、本当に「問題あり」だったらさっさと外してしまおうという腹だったのかもしれない。

ところがその直後、この場は意外な展開となった。

「このアルバイトを選んでここに来た理由は?」
待ってましたと言わんばかりに答えたダザイの返答がよかった。
「中学と高校で地学部、やってました」
なるほど地学部歴6年。そうだったのか。ぼくも感心して彼の横顔を見たのだが、大学関係が喜んだことは言うまでもない。
「ほほう。地学部。それは結構。どんな活動をしていたのかね?」
「自分は岩石標本を作りました。標本箱も自分で工作しました」
「ふむ。……何種類までいった?」
「中学は32種類でしたが、高校は53種類までいきました」
「その中で買ったものは?」
「1種類だけです。あとは全部自分で掘りました」

このマニアックな質疑応答を聞いて感心しつつ、焦った気分になったことは言うまでもない。「しまった!」と思った。「……どうもぼくは場違いなところに来てしまったぞ」という感が強かった。こりゃ「帰っていいよ」と宣告されるのは、ぼくだわ。
それなりの覚悟を決めていると、意外なことに次の指名はぼくを飛ばしてミシマに行った。「なぜぼくが飛ばされたのか」という理由は、いまもってわからない。3人の中で一番印象が薄かったのかもしれない。
「キミの理由は?」
「はあ……体力には自信、あります」
「それだけかね」
「はあ……それだけです」
これにはその場に居合わせた全員が(ミシマ以外だが)爆笑だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )