魔 談【 魔の工房10 】

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霊的なものが「見える者」と「見えない者」。この違いはいったいどこから生じるのだろう。先天的な能力の違いだろうか。あるいは訓練や修行やなにかのきっかけにより、獲得できる種類の能力なのだろうか。ぼく自身の経験について言えば、この事件のようにそうした場にたまたま居合わせたり、そうした特殊な能力を有している友人がすぐ横に立っていたり、そのような機会は今までの人生で何度かあった。しかしぼく自身が霊的なものを見たことはただの一度もない。

デッサンの腕にいささかなりとも覚えがある者にとって、これは本当にくやしい。見えさえすれば、ぼくだったらとても興味深く観察し、彼らの心情なり訴えなりを想像するだろう。場合によっては絵にすることもできるだろう。しかし見えない。しかたなく彼らを見ている友人の反応を観察し、あるいは友人から話を聞いて、彼らの様子を想像するしかない。これは本当にもどかしい。壁の穴から外を見てすごく怖がっている友人の脇で「どうした?……なにを見た?」と聞いているようなもどかしさだ。

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ミシマの話を聞き、ぼくはあわてて立ち上がった。
「みんなここにいる?」
ぼくとしてはそんな状況である以上、ダザイがやばいと思ったのだ。駆けつけたところで、どうにかなるような問題じゃない。それはよくわかっていたが、とにもかくにも背丈ほどもある夏草の向こうに行ってしまったダザイが心配になったのだ。ところがミシマがまたワイシャツをひっぱった。なぜ止めるのかさっぱりわからなかった。
「やばいだろっ!」
怒鳴った声にミシマはちょっと驚いたようだった。……が、すぐに「大丈夫」と言った。
「なにが大丈夫なんだよっ!」
「……なにもしない子たちだから」
「なんでそんなことわかるんだよっ!」

怒った気分はまだ持続していたものの、その一方で「大丈夫」と言った彼の言葉にはかなり救われた。ぼくだって4人だか5人だかの子供の霊がウロウロしているような所にわざわざ飛びこんで行きたくはない。それにしてもぼくのように「見えない」、したがって「理解できない」者にとっては不可解きわまる話だ。子供の霊が5人ほどここにいるらしい。みな悲しくつらい思いを残しながら死んだらしい。痛ましい話だとは思うが、我々にどうしろというのか。またどうにかしたところで、すでに死んでしまっている。
「なんにしても、いまの話を聞かせてやれよ!」
「知ってるよ、もう」

あきれてしまった。……やれやれそうなのか。そういうことか。見えないのはぼくだけで、お前らもう知ってたのか。……そういう気分だった。
再び座った。強いウィスキーでもグッとあおりたい気分だった。
「……で、ガキどもがそこに全部いる理由は?」
「オレは知らん。……知らんでいい」
ははあ、と思った。ぼくはダザイが向かった方向を見た。
「しかし地学部はそうは思わなかったわけだ」
ミシマは無言でうなづいた。がっくりと肩を落としてしまっている。いったいなにがこの男をここまで意気消沈させてしまうのだろう。ともあれ、この男はしばらくは立ち上がりそうにない。

ぼくは立ち上がった。ミシマがなにか言うかと思ったが、もうなにを言う元気もない様子だ。ダザイを探しに行ったら、この男はさっさと帰ってしまうかもしれない。どうするか一瞬迷ったが、やはり行くことにした。帰りたいヤツはさっさと帰ればいい。そんな気分だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )