【 生物学魔談 】魔の胞子・タイワンアリタケ(2)

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さて前回のつづき。
昨年度2017年11月に米国科学アカデミーから公開された論文によれば、「(タイワンアリタケに乗っ取られた後の)スキャンしたアリの標本をコンピューターで3Dモデル化し、人工知能を用いた画像識別技術で分析した結果、タイワンアリタケ菌は、アリの全身に侵入しながらも、脳には全く手をつけていないことがわかった」とある。

なんのことやらよくわからんと思う。筆者もよくわからん。そこで前回の魔談で「たとえ」としてもってきたスノーウォーカーに再び登場していただこう。これをたとえとして考えた方が、読者も筆者もよく理解できるように思うからだ。

ズシンズシーンと進撃中のスノーウォーカー。空中から接近する空挺部隊輸送機。コバンザメのように首尾良くスノーウォーカーの巨大な胴体にピタリとくっつくと、バラバラッと部隊が散開。スノーウォーカー内部に侵入。彼らはスノーウォーカー頭部に急行。操縦している乗組員を急襲。これで乗っ取りは成功である。

これまでの定説では、このようにしてアリは乗っ取られ、その行動を操られていると考えられてきた。つまりタイワンアリタケ菌はアリの脳に侵入して、アリをコントロールしているのだろうと考えられてきたのだ。ところが今回、乗っ取られたアリの標本を持ってきてスキャンし、そのデータを立体的に可視化して詳しく調べた結果、意外にも「ここにいるハズ」と予想されていたアリの脳にタイワンアリタケ菌はいなかった。内部に侵入しておきながら、操縦室にいなかったというのだ。「そんなバカな」と生物学者たちは目を疑ったことだろう。

ではどうやってコントロールしているのか。この謎はまだ解明されていない。上記論文の著者のひとりであるマリデル・フレデリクセン博士(バーゼル大学動物学研究所)はじつに興味深い発言をしている。
「外部から脳を支配しているのかもしれません」

外部!……なんと「遠隔操作されてるのかもしれん」というのだ。まさかフレデリクセン博士が論文で冗談を言ってるとは思えないが、あるいはこの大胆な仮説を火種にして、議論百出を狙っているのかもしれない。筆者としては興味津々で今後の経過を見守りたいと思っている。
それにしても奇怪な話である。もしこのリモコン説が正しいのであれば、侵入部隊の任務はじつは「乗っ取り」ではなく、「リモコン設置」ということになる。操縦室にまで到達していながら、そこにリモコンを設置しただけ?……なぜわざわざそんな面倒くさい手段をとるのか。あるいは最初から操縦室に行くつもりはなく、内部のどこかに(あるいはいたるところに)リモコンを埋め込んだのだろうか。疑問はますます「魔」を帯びて深まるばかりである。おそるべしタイワンアリタケ。

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最後に、映画ファンとしてはこのテの話を持ち出した時に、ぜひ語っておきたい一作がある。
「ボディー・スナッチャーズ」
スナッチとはなにか。人間を殺し、殺した人間とすり替わることである。筆者の【 魔犬-4 】で取り上げた映画「遊星からの物体X」と設定が似ている。原作のSF小説は「盗まれた街」(ジャック・フィニイ/原題:The Body Snatchers)なのだが、この「宇宙生物による人間乗っ取り」設定は映画関係者にとってよほど魅力的なのか、「盗まれた街」から生まれた映画はなんと4本もある。

「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」(ドン・シーゲル監督/1956年)
「SFボディ・スナッチャー」 (フィリップ・カウフマン監督/1978年)
「ボディー・スナッチャーズ」(アベル・フェラーラ監督/1993年)
「インベージョン」(オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督/2007年)

筆者は上記4本の中で3本目の「ボディー・スナッチャーズ」をDVDで観た。この映画のキャッチ「あなたの躰が、異星物体の殻になる」がいかにもB級で気に入ったからだ。

案の定というか、前半の話の展開がトロイせいか、トロイ上にどうでもいい恋愛シーンがあるせいか、「これ、どうなの?」という突っこみどころがいたる所にあるせいか、とかく酷評の多いB級SFホラー映画である。しかしまあB級というのは本来そういうものだし、最初からB級とわりきって観れば、それなりに楽しめる映画である。また筆者は「宇宙生物が人間の体を乗っ取る」という設定に興味があり、その「乗っ取り方」と「乗っ取った後はどう変化しているのか」という点をどのように描写しているのか観たかったので、余計な期待をしないように注意して観た。

ちょっと「面白いな」と思ったのは、ハリガネムシみたいな数本のクダがウネウネと出てきて眠っている人間に絡みつき、鼻とか口から内部に侵入するシーンなのだが、そのままスルスルと内部に入ってしまうのかと思いきやそうではなく、そこから吸収した細胞(?)あるいは生命力(?)ですぐ近くに複製を作ってしまうことである。なので正確にはこれは「体の乗っ取り」ではなく、「体の複製」ということになる。なんで外部にわざわざ複製を作る必要があるのかその点の説明が全くないのでよくわからんが、まあそういう宇宙生物なのだ。

しかし「体の乗っ取り」という点にこだわってもう少し話題を続けると、前述したハリガネムシ、これがじつはなかなか巧妙な乗っ取りをする。カマキリなどの昆虫を乗っ取ったあげくに、わざと水に飛び込ませて自殺に追いやるという驚異的な操作をする。
というわけで、次回は、
【 生物学魔談 -3 】魔の寄生 ハリガネムシ

・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )