【 警鐘魔談 】LED・魔の点滅(4)

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つい先日、テレビのスイッチを入れた瞬間に猛烈なフラッシュ点滅攻撃を目に受け、思わず「ウワッ」と目をそむけた。「TOKIO」と言えば、大方の日本人はもうそれだけで状況の説明は不要だろう。ひとりの男に浴びせられていた激しいフラッシュ攻撃が止んだ後であらためて画面を見ると、右上のコーナーに「画面の点滅に御注意ください」と小さくテロップが入っている。思わず「遅いんだよ」とつぶやきつつ急いでチャンネルを変えた。

笑い話のようだが、この状況は現代に生きる我々がいかに過酷で執拗で意外な視覚攻撃を日常茶飯事的に受けているかという一例ではないだろうか。フラッシュの集中砲火を浴びていた男に好感を持っていた女性はさぞかし多いに違いない。彼女たちは複雑な気分で、あるいは泣くような想いで、この瞬間の男の表情を凝視したに違いない。その瞬間に彼女たちが受けた精神的打撃はこの男の謝罪内容だけだろうか。「それに匹敵する打撃が、意外なところから彼女たちの潜在意識に蓄積されていく」と想像するのは考えすぎだろうか。

一方、会見に臨んだ報道カメラマンたちにとっては、「高速フラッシュ連写」は当たり前の仕事である。つい最近SONYが発売したミラーレス一眼はなんと秒間20コマという超高速連写を実現したらしい。まさにアニメ並みのコマ数だ。現場で一眼レフを構えたカメラマンにしても、テレビカメラマンにしても、仕事最優先だ。「このフラッシュ洪水が周囲の人間にどんな影響を与えるか」などと考えている人間は誰もいない。水面下の効果を見抜いてほくそ笑んでいるのは悪魔だけかもしれない。

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さて本題。悪魔と言えば「エクソシスト」(1973年/ウィリアム・フリードキン監督)というホラー映画がある。じつに45年も前の映画だが、怖い映画が好きな人はDVDで観て大いに震撼した人も多いだろう。この映画、早い話が「少女に乗り移った悪魔を退治する神父の悪戦苦闘」という、ただそれだけの直球ストーリーなんで、これほどわかりやすく怖い映画も珍しい。なので興業的に大成功し、ホラー映画の金字塔となった。アメリカでは人種や宗教や祖先の出身地に関係なく「人間だったら誰でもわかる直球ストーリー」の方が興業的大成功となる確率が高い。

まあ皮肉はともかく悪魔にとりつかれた少女リーガンがすごい。冒涜的な言葉を吐く、ものすごい形相になる、ベッドから浮き上がる、首が一回転する、仰向け姿勢で階段を降りる、などなどずいぶん派手なアクロバット的悪魔っぷりをやってくれる。まるで「悪魔がとりついたら、こんなことになっちゃいます」の見本市みたいな映画だ。それだけでもう十分だろうと筆者は思うのだが、ウィリアム・フリードキン監督はそれでも飽き足らないのか、サービス精神旺盛すぎなのか、全く余計な(としか筆者には思えない)仕掛けまで半ば実験的にやっている。それが「巧妙に隠された1シーン」なんである。

「エクソシスト」はサブリミナル映像が使われたことでも有名になった映画なのだ。サブリミナル映像とはなにか。簡単に言えば、観客が知覚できないほどの一瞬、おぞましい1シーンが挿入されている。具体的に言えば、リーガンにとりついた悪魔のおぞましい顔が、8分の1秒間、部屋の中の家具とか壁とかにパッと浮き上がっているのだ。しかも1回だけではないらしい。

監督も映画関係者も、この仕掛けについては公開当時から極秘にしていた。……なのでどこから漏れたのか知らないが、1973年と言えばまだDVDは存在しない。一部の裕福な映画愛好家のみがビデオ機器で見ることができた時代である。その後VHSビデオが一般家庭にも普及するが、VHSでは「8分の1秒挿入シーン」の確認は難しいだろう。その噂を耳にしたとしても、確認することは難しかったに違いない。しかしDVDやブルーレイがすっかり普及している現在では見たいと思えば見ることができるし、わざわざそのシーンを探すまでもなく、ネットで「エクソシスト サブリミナル」と検索すればたちどころにその「隠された悪魔のおぞましい顔」が出てくる。

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公開当時、「エクソシスト」を見た観客の反応はすごかった。嘔吐、気絶、パニック……まさに監督の思惑通りに観客は怖がった。噂はたちまち拡大し、ついにこの映画は「ホラー映画史上初の興業的成功作品」と言われるまでになった。しかしサブリミナル映像がバレてしまったことにより、「この異常な怖さはそのテクニックによるもの」とか「前例のない観客の潜在意識操作」と言われる映画になってしまった。「一歩間違えば犯罪」という記事を映画雑誌で読んだことがある。また「騒ぐほどのことでもない」とか「こういうのもあり」という意見もある。また監督に犯罪意識は全くないようだ。

この「サブリミナル映像」とLED点滅はどう繋がるのか。次回はそのあたりを大いに語って最終回としたい。

・・・・・・・・・・・・・・・( つづく/次回最終回 )