【 魔の趣味-4 】

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ニセ札の偽造。それはどんな罪になるのか。
専門学校で私が担当するクラスの男子生徒が、スキャン・加工・紙の両面印刷という技術で1万円札を偽造した。これは罪か。私にしてもそれほど刑法に詳しい訳ではない。「いやこれは単なる講義課題のための制作であり、使う意図はまったくない」という理由を述べれば、「おとがめ」程度で済むのかもしれない。しかし「魔がさす」ということもありうる。課題制作・講評・評価確定というカリキュラムが終了した後も、そのままニセ1万円札を密かに所有していたらどうなるのか。
「3年以上、場合によっては無期懲役」という話を聞いたことがある。意外に重い。

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彼の反応を観察しながら、この話をした。特に別段の感興はないようだった。「まあ、そうだろうな」程度の反応だ。犯罪の話を持ち出して彼に警告しておこうなどという気持ちはさらさらなかったが、そもそも彼の行為が犯罪である以上、「絶対に捕まらない」という保証はない。いかなる自信があろうとも、「万一」ということがある。捕まったらどのような求刑となるのか。それを彼は知っているのか。その点につき聞いておきたかったのだが……驚くほど彼の反応は薄かった。「そんなことに関心はない」と言わんばかりの表情だ。
「一応、調べておいた方がいいんじゃないのか?」
「なに、そんなことは知らんでもいい」

あきれた。自分とは全く関係がないとでも言わんばかりだ。
「……それよりな」
最近は外国人、特に中国人らしき挙動不審男を多く見かけるようになったという。大きな街の繁華街をウロつき、店ではなく行き交う通行人を物色している挙動不審男の大半は中国人だという。
「中国人だからどうこうというつもりはないけどね」と前置きして彼は語った。人ごみに紛れて彼らの行動を観察すると、路地の影や車の運転席から通行人になにかを売っているらしい。
「どうしてそれが中国人だとわかる?」
「そりゃわかるさ」
ルックス、頭髪の色、たどたどしい日本語、あるいは独特の抑揚がついた日本語。
「新米の警官でもすぐにわかるさ」
「……で、なにを売ってる」
「わからん。見当はついてるけどね」

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彼としてはそうした中国人が最も「日本をコケにしてやがる」ということらしい。最もムカつく存在らしい。しかし手を出すことはできない。
「一度、職務質問したことがあってな」声がぐっと低くなった。一人の中国人を捕まえて「そのカバンの中身を見せてもらいたい」と命じた。
「そしたらな……あいつら、やっぱ日本人と違ってな」
あっという間に6人に囲まれていたという。彼らは日本人ほど警官を恐れていない。これにはさすがの「警察」も青くなった。彼は柔道の有段者だ。数人を投げ飛ばすことなどわけはなかったが、騒ぎを起こしてしまってはまずい。通報されて本物が駆けつけてくるとやばい。

「その中の一人がな、びっくりするほど殺気を飛ばしてきやがった」
彼の直感では見張り役の男がおり、そいつは一種のボディガードであり、「かなりヤバイやつ」ということらしい。なにがどう「ヤバイ」のかこちらには見当もつかないが、その「異常なほどの殺気を飛ばすヤツ」の存在を知って「警察」は状況の不利を悟った。ジリジリと後退しながら壁に寄り、壁を背中にして、わざとゆっくりとした仕草で警棒をスルスルと伸ばした。聞いているだけでも、グラスを握った手が汗ばんでくるような話だ。
「……で、たまたまだけどな」
その時、遠くでサイレンの音がした。それを聞いた中国人たちはあっという間に消えた。

ため息をつきつつ聞いた。
「その夜はさすがにこりただろ?」
「なにが。それから2時間ほど歩いたさ」
こりてない。

……………………………………【 つづく/次回最終回 】

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