新文芸坐での「反戦・反核映画祭」とドキュメンタリー映画「いしぶみ」

戦後71年目の8月も終わった。昨年は「70年の節目」に当たり、この時期様々な戦争映画の力作・秀作が公開され話題になっていた。
今年は戦争がテーマの劇映画の公開は一つもない。今の時代に戦争映画を作るのはなかなか困難なのだろう。

日本人は自国の戦争映画を沢山見たほうがいいと思っている。日本人の歴史を知り、戦争の実態に近づくことが出来るからだ。
私の場合、これまで見た優れた反戦映画によって戦争観・平和観が作られたと言える。
また、戦争という極限状況からは最も濃密な人間ドラマが生まれ、戦争をテーマにした映画は、誤解を恐れずに言えばストーリーも面白くなるので傑作が多いのだ。

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原爆の子 監督:新藤兼人、主演:乙羽信子

監督:新藤兼人 主演:乙羽信子 amazonで見る

 戦争劇映画の新作が無い中、池袋の新文芸坐で「反戦・反核映画祭」が8月、20日間に渡って開かれた。
これは戦争や原爆をテーマにした日本映画の戦後の秀作傑作29本を上映する企画だ。
次第に戦争の記憶が風化していく中、年により特集のタイトルは違え、夏に戦争を巡る特集上映を営々と続ける新文芸坐には敬意を表したい。

今年の特集を企画して映画館に持ち込んだのがまだ20代の広島生まれ育ちの女性ということを今回初めて知った。驚いたが、若い世代にエールを送りたい。

広島原爆投下の8月6日に足を運んで、未見だった、原爆投下数年後の広島を描く「原爆の子」(新藤兼人監督)を見た。
この日、この映画に出演した奈良岡朋子さんのトークが行われた。80代という高齢だが、平和のために言いたいことははっきりと言う、という強い意志が感じられ、場内は彼女の話に拍手の連続だった。
特に印象に残ったのは、小学生だった彼女が東京大空襲を受けた時の体験だ。
空襲の翌日、本郷の小学校に向かう途中、「3.11」の津波の後と同じように人の手足が電線にぶら下がっていたこと、高台から見た風景が何も無い焼け野原であった事などだ。
戦争を直接体験した人の話はインパクトが強い。

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さて、もう一本、好きな映画を紹介したい。
東中野でこの夏公開の是枝裕和監督の「いしぶみ」というドキュメンタリー映画を見た。

映画「いしぶみ」是枝裕和監督 綾瀬はるか  

監督:是枝裕和 出演:綾瀬はるか 取材:池上彰 (C)広島テレビ

原爆投下の日、爆心地近くで勤労作業中に被爆し亡くなった広島二中の中1の生徒の遺族遺稿集を綾瀬はるか(広島出身)が舞台で静かに朗読してゆく作品だ。
生徒321人の一人一人の名前を読み上げ、スライドで少年の遺影を映し、少年達がどんな行動を取ったかを細かに語ってゆく。
川に入って力尽き流されたり、被爆の時にいた中州でそのまま息絶えたり。また、友達のお寺に行ったり何とか家にたどり着いたり、親と会えたり会えなかったりしながら、数日の内に亡くなっていく。
その中には顔に酷い火傷を負ったまま、健気に「天皇陛下万歳」や「お母さん万歳」と言って死んでゆく子もいた。

朗読の「語り」だけだが、聞きながら少年達の行動がまざまざと浮かび上がる。
今まで戦争映画で原爆投下後のむごたらしいシーンを何度も見たが、それよりもっとリアルで鮮明で強いイメージが頭の中に形成されていった。
原爆の描写の場合、「作り物」の映像より、言葉の方が想像力を喚起する力が強いのかも知れない。

実は、広島で被爆した後、人々が具体的にどう行動したのかほとんど知らなかったのだが、この映画でよく理解できた。
そして、この悲劇がこの少年達だけでなく広島の無辜の老若男女10数万人に起こった悲劇であったことを考えると慄然とする。

※「いしぶみ」画像は映画.comより http://eiga.com/movie/84477/