近年増えるナチ・ヒトラー映画(2)「アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男」 「ヒトラーの忘れもの」など

前々回に続いてナチ・ヒトラー関連映画を続けたい。今年に入って2本その新作を見たが両方とも秀作だ。ドイツの「アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男」とデンマークの「ヒトラーの忘れもの」である。

「アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男」監督:ラース・クラウメ 出演:ブルクハルト・クラウスナー ロナルト・ツェアフェルト

監督:ラース・クラウメ 出演:ブルクハルト・クラウスナー ロナルト・ツェアフェルト

前者は前々回も書いた戦争犯罪人アドルフ・アイヒマンを追う検事総長フリッツ・バウワーとその部下の話であり、アイヒマン逮捕の努力が話の骨格だ。
しかし、アイヒマンがバウワーらの努力で捕まったことは周知のことなので、この映画はその変奏曲というか少しひねった作りにしてある。すなわち、シリアスな内容を描くだけでなく、一緒に行動する若い検事と主人公の総長が人間として謎めいたところを持っている設定にしてある。それは簡潔に言うと2人共に同性愛者であるということだ。

検事総長は若い頃その傾向があったと台詞で伝えられる。若手の検事は段々と自分の中の同性愛志向に気づいて行き戸惑いを感じ、それが映画の後半の展開の大事な要素になる。夜の闇の中にジャズが流れ、妖しくも美しい女装の人たちが出てきたりする。その雰囲気がいい。

また、前回紹介した「顔のないヒトラーたち」と同様にドイツ政府の中や検事の中にナチの残党がいて妨害工作をしかけてくる。それでも検事総長は悠然とタバコの煙をくゆらせ仕事を続けていく。筋金入りの意志強固な魅力のある人物だ。

「ヒトラーの忘れもの」監督:マーチン・ピ-タ・サンフリト 出演:ローラン・モラー ミケル・ボー・フxルスガード

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もう一本の「ヒトラーの忘れもの」は全く知らなかった史実を基にした話だ。ナチがデンマークの海岸に無数に設置した地雷を敗戦国ドイツの少年兵たちが撤去する。いつ地雷が爆発するか分からない。その作業の緊張感が息苦しいほどで気の弱い自分は始まって10分で見に来なければよかったと思った位だが、話の工夫があり最後まで惹きつけられた。

15・6歳ほどの少年達が満足な食料も無い状態で過酷な作業を続ける。手足を吹っ飛ばされ「お母さん」「家に帰りたい」と言って死んでいったりする。本当に痛ましい。
彼らの演技もいいが、少年兵を厳しく指導しながらも段々とヒューマンな面を見せるデンマークの軍曹が良かった。自分の国民はナチに残虐な行為を受けているので少年に厳しく接するが、彼の心も揺れる。優しい行為を示したかと思えば、少年達が撤去しそこなった地雷のせいで自分が飼っている愛犬(彼には家庭も無い)が悲劇に会うと、彼の態度も変わったりする。その揺れる気持ちも分かる気がした。

この映画には、戦争の残酷さと、それでも、国は違えど人間同士の心の交流はあるという人間の美しさが混交して存在するところがいい。
ナチ・ヒトラー映画はドイツだけでなくヨーロッパで営々と製作されているということを実感する。ナチの所業を忘れないという執念を感じさせる。

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「ハンナ・アーレント」監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ 出演:バルバラ・スコヴァ アクセル・ミルベルク

監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ 出演:バルバラ・スコヴァ アクセル・ミルベルク 【amazonで見る】

さて、好きな映画をもう一本。実は数年前まで、ナチのアイヒマンが国外逃亡していて彼がアルゼンチンで逮捕された事実さえ知らなかった。そのことを知ったのは2013年公開の「ハンナ・アーレント」という映画によってだった。

ハンナ・アーレントとはアメリカに亡命したドイツ系ユダヤ人の哲学者。驚くことに彼女はアイヒマンが逮捕され裁判が行われてそれを傍聴した時、彼は官僚として上からの命令を忠実に実行したに過ぎなかったいう報告を出して議論を巻き起こし四面楚歌になった女性なのだ。彼女が大学の教壇に立ち実にカッコよく煙草を吸いながら学生達にその持論を述べる姿が印象に残る。

この映画が神保町の岩波ホールで上映された時には大ヒットを飛ばした。見に行くと、ホールは8階だが並んで待つ観客が1階まで達していたのを覚えている。客は主に中高年だったが、日本の中高年の知的関心は高いのだと実感した出来事だった。因みにキネマ旬報ベストテン3位。