残酷だが美しい、熊本復興支援映画「うつくしいひと サバ?」

4月14日、熊本地震が発生して丁度丸一年経った日の夕方、六本木ヒルズ内の映画館で「うつくしいひと サバ?」の完成上映会が開催された。熊本を支援する映画の続編だが、私は偶然ネットでこの上映会のことを知り応募したところ幸運にも当選して映画を見ることが出来たのだ。何度もこの連載に登場させて申し訳ないが、今回もこの被災地を支援する映画を巡って書きたい。

映画「うつくしいひと サバ?」監督:行定勲 出演:高良健吾 米村亮太朗 中別府葵ほか

監督:行定勲 出演:高良健吾 米村亮太朗 中別府葵 石橋静河ほか

実は4月8日、9日に熊本復興映画祭が開かれ、熊本城の敷地内にある二の丸広場で、1万人(!)の参加者を集めて無料野外上映されている。「うつくしいひと」「うつくしいひと サバ?」は2本立てで夏に全国公開される予定で、その時じっくり見てほしいと思うが、いち早く見た者として、とにかくこの映画の素晴らしさを伝えたいので、結果的にネタバレになってしまうところもあるが、敢えて書かせてほしい。

この映画も前作同様40分ほどの短編だ。タイトルの「サバ?」というのは、「元気ですか」の意味のフランス語の「サバ?」と魚の鯖を掛けてある。
一番被害が大きかった益城町出身の日本人女性がフランスで亡くなり、夫であるフランス人男性がその遺骨を益城に住む遺族である父に届けに来る。
前作に登場していた探偵(高良健吾)たちがその協力を行う、その中でいろんな人に出会っていくというのが物語の骨子だ。

私が昨年7月熊本に帰省した時に周りから、益城は見に行かない方がいいと言われた。理由は、被害が大きすぎてショックが残るからということだった。
映画は、探偵たちが車で益城に入ってゆき、カメラが被災した街を捉える。スクリーンで見ると被害を目の当たりにするようで、もう、胸が苦しくなるようだった。

映画の中で、ある人物が「ここに長年住んでいたが地震で家が崩壊した。この絶望を癒すのを簡単に手助け出来ると言うな」といった台詞を言う。これが、被災した人の本当の気持ちの一つであると思う。監督が言う、記録映画としてカメラを向けても被災者は本音を出さない、ドラマでしか描けない、という部分だろう。

さて、フランスで亡くなった女性はかの地でコンテンポラリーダンスをやっていたという設定だ。そして今の益城にも、これを勉強している若い女性がいて、探偵の発案で、追悼のためにダンスを踊ることになる。

彼女が、復興市という、食べ物の屋台があり民謡「おてもやん」で寛ぐ人たちがいる場所の一角で力強く踊りを始める。エレガントだと思っていると、彼女が突然大きな声で絶叫する。すると、彼女の服装が黒に変わる。バックの風景が突然変わる。
風景が震災の被害のシンボルたる、阿蘇大橋(若者が亡くなった)、阿蘇神社の神殿(一階部分がひしゃげた)、熊本城の石垣(絶対崩れるはずがなかった)に変ってゆく。
その中で彼女が踊り続ける。指の先からつま先まで感情があるようだ。それは名状しがたいが、被災の悲痛と残酷、鎮魂の思い、しかし感じてしまう芸術の美しさ、未来への希望などだ。そのいろんな思いが混沌としてないまぜになって、私の胸に迫って来てものすごく心を揺り動かされたのだ。

あの「叫び」こそがやはり、被災者の心情の代弁だろう。即ち、悲しみ、怒り、不条理な思い。私はこの叫びと、それに続くこのシーンがあるからこそ作品として際立ったと思う。

映画史の中で、被災地の生々しい風景をバックにして、残酷だが、美しさまで感じさせる映画を見た記憶がない。自分が熊本の出身だから身びいきになっているのではなかろう。

この映画は永久に見られて語り継がれるだろう。それにしても、風景とダンスとドラマを組み合わせた傑作を短期間で作り上げてしまった行定勲監督に対し畏敬の念を感じる。スゴイ。

映画 「うつくしいひと」監督:行定勲 出演:橋本愛 高良健吾 姜尚中 石田えり他

前作「うつくしいひと」 監督:行定勲 出演:橋本愛 高良健吾 姜尚中 石田えり他

※画像は公式サイトより

(by 新村豊三)

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