東映を背負って立った監督中島貞夫と脚本家高田宏治「北陸代理戦争」と「オーバーフェンス」

今年の湯布院映画祭の特集は東映の監督中島貞夫と脚本家高田宏治だった。もう齢80を超えておられるが、その作品は多岐に渡る。映画上映の後行われるシンポジウムは愛情を込めて大阪弁で歯に衣着せずよくしゃべくりまくる高田氏の独壇場。実に頭のシャープなエネルギッシュで面白いおっちゃんだった。

その高田氏が脚本を書き、演出は深作欣二だが、撮影がトラブル続きで中島監督が撮影協力した作品に77年の傑作「北陸代理戦争」がある。これは実録ヤクザ映画としても滅法面白く、また、現実世界に衝撃的な事件を引き起こした映画としても有名だ。

映画「北陸代理戦争」監督:深作欣二 出演:松方弘樹 野川由美子他

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福井の地方ヤクザが広域暴力団の攻勢に抵抗する内容なのだが、現実の抗争に取材して劇を作り上げている。ところが、公開後2ヶ月で、モデルとなったヤクザの親分が子分に当たる主人公のモデルを、実際に映画で出てくる喫茶店で射殺してしまう事件が起きるのだ。これは「三国事件」として知られている。
理由は、ごく簡単に言えば、映画の中で、親分と対立する子分が映画のヒーローとなっていて、現実の親分が映画の描写に神経を逆撫でされてしまい報復したのだ。
冒頭、雪降る中、松方弘樹(ギラギラした獣のような魅力を発散)が、海辺の砂浜に生められ頭一つだけ出した親分を脅そうとジープを頭スレスレで疾走させるというシーンもある(無論、映画的には面白い)。

映画なのに現実世界でやり返すヤクザも凄いが、現在進行形で進んでいるヤクザの抗争を映画にする東映映画人の発想と大胆さには驚いてしまう。東映という映画会社は、現実の世界に材を取ったり、その時代その時代のスキャンダルや話題を取り込んで活力ある映画を作るのが上手い。
この映画は残念ながら客が入らず東映の「実録路線」の終焉となり、かつ、その後の「極道の妻たち」のような「女のヤクザ映画」の原型を作った作品としても歴史的意味がある。

映画の奈落完結編 伊藤彰彦著 講談社+α文庫

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この映画に関しては「映画の奈落」という本が詳しい。この本は東映のヤクザ映画作り全般と高田宏治の脚本作りのプロセスを活写していて実に面白いお勧めの映画本だ。彼は「極道の妻」シリーズも執筆し巨額の金(年収七、八千万を超えたとか)を得たのだが、本で触れられる、極道にはかられて家と財産を失ってしまい35歳年下の妻と暮らしているという高田氏の私生活には、映画に負けぬ面白さがある。

高田宏治の代表作に「鬼龍院花子の生涯」がある。そう、「なめたらいかんぜよ!」の決め台詞が流行した、83年のあの映画だ。この台詞を言う夭折した夏目雅子が美しい。まさに美人薄命。残念な女優さんが亡くなったものだ(因みに、これも先年亡くなったキャンディーズのスーちゃんこと田中好子とは、義理の姉妹の関係になる。夏目の兄とスーちゃんが結婚)。
この映画は、70年代の、男が活躍する男のためのヤクザ映画ではなく、80年代の、女も活躍する、カップルあるいは女のためのヤクザ映画の代表作。

中島監督は永らく大阪芸大の教授を務め、現在映画界で活躍する若手の俊英を多数輩出した。例えば、山下敦弘、呉美保、石井裕也と枚挙に暇がない。ふたりがキネ旬のベストワン作品を撮っている。これは凄いことではなかろうか。
映画祭で知り合った彼の教え子に聞いたところによると、卒業実習の映画製作はフィルムにて行ったそうだ。かなりの金額が掛かるやり方だ。この真剣勝負の製作こそがその後、功を奏したのではなかろうか。

さて、好きな映画をもう一本!

映画「オーバーフェンス」監督:山下敦弘 出演:オダギリジョー 蒼井優 松田翔太他

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教え子の山下敦弘監督の昨年の作品「オーバーフェンス」が好きだ。函館の労働訓練所に集まった男達の群像ドラマ。男達はさまざまな人生の事情を抱えてこの作業場に集まって来ている。その人間模様がいい。また、作業の合間に野球を楽しむ姿も描かれていく。淡々と緩やかに進むが、主演のオダギリジョーが野球の試合で大飛球をかっ飛ばすラストの清々しさは忘れがたい。

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