英国戦争映画の新作「ダンケルク」と「ハイドリヒを撃て」、そして「英国王のスピーチ」

またまた戦争映画で申し訳ないが、今回はまず2本、英国の監督が撮った現在公開中の戦争映画を取り上げる。
以前にも、ここ数年ヒトラー映画、ナチ映画の製作がヨーロッパで増えていることを述べた。日本でも依然として、戦争映画の公開が続く。しかも、今回の2本、そもそも、映画が描く事実があったことをよく知らなかったので驚いたし、映画の表現も誠に優れているものであり、是非とも紹介したくなるのだ。

一本目は「バットマン」や「インセプション」などで知られる鬼才クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」だ。

映画ダンケルク 監督:クリストファー・ノーラン 出演:フィオン・ホワイトヘッド トム・グリン=カーニー他

監督:クリストファー・ノーラン 出演:フィオン・ホワイトヘッド トム・グリン=カーニー他

これは第二次世界大戦が始まった頃(アメリカが参戦する前)、ドイツ軍に攻め込まれ、フランスの海岸ダンケルクからイギリス・フランス軍の兵士30数万人が撤退した史実を描く。この映画は、陸からの撤退、海からの救援(しかも民間の漁船だ!)、空軍の防御の3篇を、同時進行で描き途中でクロスさせる構成だ。

IMAXで見たが大正解だった。画面がデカい。映像がクリアーでリアル。音響も迫力あり、この戦争映画にはぴったりだった。監督はCGを使わず本物の巡洋艦や飛行機を使って撮影しており圧倒的な臨場感がある。本物の船が沈没していくし、飛行機が空を飛ぶ。また、浜辺の広さを見事に捉え空間の広がりを感じさせる。広がる空の青さ、海の青さがとても印象的。
見終わって感じるのは英国人の精神の気高さだ。船が出て行った後に自分は浜辺に残る将校、民間船を操縦した軍人ではない父親、そして一人で空を戦った飛行機のパイロット。彼らの行為に感銘を覚えた。

もう一本は「ハイドリヒを撃て!『ナチの野獣』暗殺計画」だ。
原題はanthropoid (類人猿)、これはナチの第3番目の高官ハイドリヒ暗殺計画を意味するコードネームだ。すなわちチェコを併合しユダヤ人虐殺の暴虐の中心人物だった彼を、英国からプラハに来た二人の若者が狙撃しようとする。

ハイドリヒを撃て!ナチの野獣暗殺作戦 監督:ショーン・エリス 出演:キリアン・マーフィ ジェイミー・ドーナン他

監督:ショーン・エリス 出演:キリアン・マーフィ ジェイミー・ドーナン他

この映画はイギリスと、舞台になったチェコなどの合作だ。監督はイギリス人だが撮影も担当している。黄みがかった柔らかい照明で、美術も重厚で当時の時代が再現されているのにまず感心する。そして、狙撃を初めとするアクションや銃撃戦を描くカッティングが見事だ。
狙撃したグループが次第に追い詰められてゆく。彼らの協力者への拷問がまた酷い。支援者達は一人ひとり青酸カリを持たされている。拷問で仲間に不利な情報を出してしまわないように自ら命を絶て、ということなのだ。協力者の一人の普通の善良な主婦が青酸カリを呷るときの、恐怖におびえながらも強い意志を感じさせるシーンには崇高さを感じた位だ。
狙撃グループは教会の地下に閉じこもり抵抗するが、ナチは地下に水を注入していく。。。私はこの史実を知らなかっただけに余計に衝撃的だった。

☆     ☆     ☆     ☆

映画「英国王のスピーチ」監督:トム・フーパー 出演:コリン・ファース ジェフリー・ラッシュ他

監督:トム・フーパー 出演:コリン・ファース ジェフリー・ラッシュ他【amazonで見る】

さて、好きな映画をもう一本!
「ハイドリヒを撃て」の冒頭、当時のニュースフィルムが映るがその時、a principle, which, if it were prevail, (もし、その全体主義が広まれば...) という英語が聞こえた。これは映画「英国王のスピーチ」のクライマックス、1939年に英国王ジョージ6世がナチとの開戦を国内外の国民に伝え国民を鼓舞するシーンのスピーチの一節だった。この映画は、吃音に悩む国王とオーストラリア人の言語セラピストとの訓練の過程と二人の友情を描く名作だ。イギリス独特のユーモアも盛り込まれているところがいい。

私がこの映画を見たのは,2011年3月の末のこと、そう、「3.11」を経験した後に初めて映画館に行った時だった。まだ余震は続くし、街も灯りが減り薄暗くなった池袋西口の一角にある劇場でだった。
映画で、国民に心を一にして未曽有の難局を乗り越えようと訴えるその言葉が、私の胸には、皆で地震と津波の後の困難を乗り越えていこうと訴えているように感じられ、感銘を残す映画となった。
今考えるとあの時こそ、「国難」ではなかったか(まだ原発の避難は続いている)。ミサイルが上空を時折通過するだけで国難と言う言葉を使う人を、私は信じない。