日中合作「空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎」と「マンハント」

昨年秋ごろネットで、あの中国の巨匠チェン・カイコー染谷将太を主演にして「空海」を撮っているという記事を読んだ時は心が躍ったものだ。
巨匠と日本の新鋭若手俳優。何という組み合わせ。この監督なら、中国の風土を映像の中にたっぷりと生かし、青年空海が時代や社会との関わりの中で成長してゆくドラマを、力強くシリアスに描くだろうと思ったのだ。
ところが、チラシや予告編を見るにつけ、ちょっと違うなあという感じが生まれてゆき、段々と期待がしぼんで行く。
公開が始まった映画は「吹替版」なので、しばらく待ったら字幕版(つまり中国語が聞ける)が出ると思っていたが、日本では「吹替版」しかないということなので、公開後1週間経ってやっと見たという次第。

空海 監督:チェン・カイコー 出演:染谷将太 ホアン・シュアン 阿部寛ほか

「空海」監督:チェン・カイコー 出演:染谷将太 ホアン・シュアン 阿部寛ほか

空海の修行なんかでは全くなく、9世紀初頭大都市であった唐の都長安で連続殺人が起き、これを空海が詩人の白楽天と共に探偵の様に解決しようとするお話なのだ。事件の核になるのは、30年ほど前に「安禄山の乱」(高校の世界史でやったなあ)が起きて亡くなった楊貴妃の死の真相だ。

昔の巨匠としての重厚な作品を期待すると肩透かしを食うだろう。見なきゃよかった、後悔した、チェン・コーカイだ、と上手い洒落を言った知人もいる。が、途中で割り切って見ると、それなりに見どころはある。
長安の街を再現したオープンセットが素晴らしい。半端でなくお金を掛けている。美術も凝った豪華絢爛な映像で、特に王宮で催される宴のシーンはきらびやかの一言だ(しかし、そこに濃密なドラマがないから、映像ショーのようでもある)。
偉そうな(?)言い方をすれば、30年前貧しかった頃、中国の社会と人物をダイナミックに描いた監督が、今はハリウッド的CGやヴィジュアル重視の映画を撮っている(しかも、それなりに成果は出しているが)、しかし、人間は薄っぺらになった、ということだろう。中国映画界の要請がそうであっても少し寂しい。

「マンハント」監督:ジョン・ウー 出演:チャン・ハンユー 福山雅治 國村隼ほか

「マンハント」監督:ジョン・ウー 出演:チャン・ハンユー 福山雅治 國村隼ほか

さて、次も中国映画だが、以前も紹介した日本映画「君よ憤怒の河を渡れ」のリメイクの「マンハント」だ。これを、アクション映画の巨匠ジョン・ウーが監督している。
製薬会社の犯罪に巻き込まれた中国人弁護士と日本人の刑事がタッグを組んで解決にあたろうとする映画になっているが、リメイクとは呼べないだろう(元の作品では、日本人検事の高倉健が無実の罪に陥れられ、外国人は誰も登場しない)。
この映画の感想を一言で言うと、「珍品」である。映画の4分の3位までは、ずっと駄作だと感じ、見るのが苦痛だった。話がいい加減なのである。製薬会社が「最強戦士」になる薬を開発していて、それをホームレスに試すという荒唐無稽さだ。また、日本人刑事を演じる福山雅治がヘタなのである。台詞回しがよろしくないのだ。
と、思っていたら、福山が製薬会社に乗り込んでからの展開が、カオス状態になっていく。会社社長の息子までがこの薬を飲み暴れだす。しかし、そのデタラメな描写は失笑を突き抜け、何だか映画的興奮を感じてしまうほどになった。こういうのを「珍品」と呼ぶのではないか。その息子の池内博之、もっと狂いまくってほしかった。

「さらば、わが愛 覇王別姫」監督:チェン・カイコー 出演:レスリー・チャン チャン・フォンイー

監督:チェン・カイコー 出演:レスリー・チャン チャン・フォンイー【amazonで見る】

さて、大好きな映画を一本は書きたい。チェン・カイコ―の最高傑作、94年の「さらば、わが愛 覇王別姫」は素晴らしい作品だったなあ。力強く鮮烈で、骨太なテーマを見事な映像で描き、中国映画を世界に知らしめた一本だったと思う。
京劇の俳優を養成する学校で二人の少年が厳しい訓練を受けながら成長し、一人は男役にもう一人は女役になる。
しかし、歴史の波に翻弄され、日中戦争中は日本軍に利用され、戦後は文化大革命で批判にさらされる。中国の歴史を背景にスケールの大きなドラマが171分の長尺で展開する。ずしりと重い手触りを感じさせる傑作だった。
文革の時、京劇の俳優が公衆の面前で人民の敵と罵倒されるシーンを覚えている。監督自身が文革時代に地方に下放され7年ほど農村で重労働させられた経験を持っていたからこそ、皮膚感覚であのシーンが描けたのではないかと思う。

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