移民問題を描き、社会性と娯楽が融合した傑作ドイツ映画「女は二度決断する」

またまた凄い映画を見た。アメリカ映画「シェイプ・オブ・ウォーター」と並び、早々と今年の洋画のベストワン候補にしたいほどだ。ドイツ映画「女は二度決断する」である。
(ドイツ語の原題は「Aus Dem Nichts」、英語だと「From the Nothing」なので、「ゼロから」、「全てを無くしたところから」といった感じだろうか)

「女は二度決断する」監督:ファティ・アキン 出演:ダイアン・クルーガー デニス・モシット ヨハネス・クリシュ

監督:ファティ・アキン 出演:ダイアン・クルーガー デニス・モシット ヨハネス・クリシュ他

ここ数年のヨーロッパ映画の傾向として、「ナチもの」と「移民映画」の増加が挙げられる。現実を反映して多くの問題が提起され、しかも映画としての質が高いのに驚くが、この映画もその一本。
チラシだけ見ると、カッコいいお姉さんが夜の都会を徘徊するアクション映画のようなイメージを抱いてしまうが、映画の中身は全然違う。夫も息子もいるれっきとした家庭の主婦だ。大学時代は芸術を専攻し脇腹に小さく日本のサムライのタトゥーを入れていると言っても。
ドイツのハンブルグに暮らす彼女はクルド系の夫と結婚しているのだが、爆弾テロで夫と小さな息子の最愛の二人を殺害されてしまう。この映画は、テロの犯人である若い夫婦を被告とした裁判の過程を描く映画であり、そして彼女が裁判の後で「ある行為」を行う映画なのだ。
ここまでのストーリーは紹介していいだろう。出来ればこの映画は予備知識なしで見てほしいが。

爆弾テロの犯人はネオナチである。裁判の時に、犯人の一人の父親が言う「息子はヒトラーを崇拝している」という言葉が怖い。
この映画は移民問題とネオナチの犯罪という社会性に加えてハラハラドキドキさせる娯楽性があるのが良い。特に裁判の緊迫感あふれるやりとりには思わず身を乗り出してしまう迫力があった。被告側の坊主頭の人相の悪い(?)弁護士の物言いがすごい。冷酷にズケズケ、こちらの弱点をついてくる。もう息苦しいほどだ。

映画は3部構成だが、第一部は雨がしとしと降り陰鬱な画面が多く、第三部はギリシアが舞台になって打って変わってからっとした天気で陽光が溢れる。その画面の対比も見事である。
敢えて詳しく書かぬが、ヒロインの取る行動には、映画を見た者から賛否両論が上がっている。私は断固支持したい。
このヒロインを演じたダイアン・クルーガーがまた魅力的。ドイツ出身、アメリカ映画で活躍している女優とは知らなかった。スタイルが良くクールな美貌の持ち主。繊細な表情がまたいい。
演出をしたファティア・アキン監督自身がトルコ系のドイツ人であるが、ドイツで移民問題が起きているのは、第二次世界大戦後に外国から労働者を募ったことと、戦争の反省から寛容性を謳ったから。
劇場で購入したパンフレットによれば、NSU(国家社会主義地下活動)という極右グループが、2000年から7年の間に、8か所の都市でトルコ人などの外国人とドイツ人の女性警察官を殺害した事件を下地にしているとのことだ。

「おじいちゃんの里帰り」監督:ヤセミン・サムデレリ 出演:ベダット・エリンチン ラファエル・コスーリス他

監督:ヤセミン・サムデレリ 出演:ベダット・エリンチン ラファエル・コスーリス他【amazonで見る】

さて、好きな映画をもう一本!
トルコからドイツへ来た移民がどんな生活を送り、現在どんな考え方をしているかがよく分かる映画がある。2011年の「おじいちゃんの里帰り」という作品だ。
戦後すぐトルコから出稼ぎにやって来て、ドイツ政府の労働者に対する支援もあり、家族を呼び寄せてついに住んでしまったおじいさんが子供や孫を連れて何十年ぶりに故郷に帰るロードムービーである。

イスラム教徒がキリスト教の異文化に接した時の驚きが上手く描かれる。また、私たち観客もなじみの薄いイスラム文化を知ることになる。父親世代はイスラム文化を保持したいものの子供たちが完全に「ドイツ化」しているところが面白い。また、息子たち娘たちも今の時代を生きており様々な問題を抱えているところがいい。
これまた、トルコ出身の女性監督である。シナリオも緻密に書かれている。しかもハートウォーミングな作品で後味がいい。これは隠れた名作の一本。

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