レバノン人とパレスチナ人の対立を描く映画「判決、ふたつの希望」

レバノン映画の秀作「判決、ふたつの希望」を見た。
この作品はレバノン人とパレスチナ人との対立とその微かな希望をテーマとして、ハリウッド的エンターテインメント要素も入れて作られた作品だ。

映画「判決、ふたつの希望」監督:ジアド・ドゥエイリ 出演:アデル・カラム カメル・エル・バシャ リタ・ハーエク他

「判決、ふたつの希望」監督:ジアド・ドゥエイリ 出演:アデル・カラム カメル・エル・バシャ リタ・ハーエク他

首都ベイルートで、アパートの排水管の工事を巡りパレスチナ人がレバノン人を侮辱してしまい、その謝罪を求めて裁判が始まる。よくある話だと思うが、困ったことに大物弁護士がしゃしゃり出たり、マスコミが煽ったりしてどんどんエスカレートし、ついには当人の問題を超えて国対国の構図となってゆく。
中心になる法廷劇の原告被告のやり取りは中々面白い。特に原告側の弁護士なんぞ、不快なほど小憎らしい論理展開で攻めてくる。原告・被告もそれぞれ事情があるし、特に被告は重い過去を背負っていることが理解されてくる。

裁判の結末は勿論伏せるが、見終わっての後味がいいのがこの映画の美点だ。当然一方が負けるわけだが、法廷を離れた外の現実では、二人の間に、ある行為のやり取りが行われる。それによって、裁判では負けていても、負けの部分が実質上手く補われて二人がイーブンの関係になっている。そこがいい。だからこそ、ラスト二人の微かな微笑が相手への理解と寛容から来ているものだと理解できるのだ。
新聞によれば、この映画はレバノンで圧倒的な支持を得たとのことである。これは映画のタイトルのように、将来の希望が生まれるような明るい事実である。

さて、パレスチナ人を描く映画で、同じように明るい希望を見せてくれたのが2013年日本公開の「もうひとりの息子」だった。

映画「もうひとりの息子」監督:ロレーヌ・レビ 出演:エマニュエル・ドゥボス パスカル・エルベ他

監督:ロレーヌ・レビ 出演:エマニュエル・ドゥボス パスカル・エルベ他

舞台はイスラエルのテルアビブと、ヨルダン川西岸地区である。
ご存知の方が多いと思うが、この映画は2012年の東京国際映画祭でグランプリを受賞している。この映画がユニークなのは、何とパレスチナ人とイスラエル人の息子が病院で生まれた時に、湾岸戦争による空襲の混乱の中で取り違えられて育ち、高校生になった今その事実が分かった家族を巡る話、ということだ。
偶然2013年には是枝裕和監督の「そして父になる」という、同じく子供の取り違えをテーマにした映画があったが、正直に言うと、「もうひとりの息子」の方が映画として質が高い。

パレスチナ側が軍人と医者の裕福な家族であり、息子は音楽好きでぽわったとした性格だ。一方、イスラエル側は車の修理工をしていて豊かな暮らしではない。息子は優秀で親戚を頼ってパリへ留学している。そんな対比的な家庭だ。両親は取り違えを知って、特に父親は混乱し狼狽するが、当事者の子供たちは冷静で、少しずつお互いの家庭の交流を進めていこうと心を決めてゆく。その素直で優しい姿勢に静かな感銘を受けた。音楽や映像も良く、これは本当にお勧めしたい作品だ。

レバノン映画「キャラメル」監督:ナディーン・ラバキー 出演:ナディーン・ラバキー ヤスミーン・アル=マスリー ジョアンナ・ムカルゼル他

監督:ナディーン・ラバキー 出演:ナディーン・ラバキー ヤスミーン・アル=マスリー他【amazonで見る】

さて、好きなレバノン映画をもう一本!
日本で初めて公開されたレバノン映画「キャラメル」(07年)だ。ベイルートで美容店を営む3人の年齢の違う女性、常連の客、服の仕立てを行う知り合いの年配の女性の人間模様を描いた秀作だ。
女性たちの心情や悩みが繊細かつ豊かに描かれている。美容店の30代の女性オーナー(実はこの映画の監督!アラブ系美人だ)は妻子ある男を愛してしまい、美容室のもう一人の子は結婚直前だが処女でないことをイスラム教の新郎に知られることを心配している。3人目の若い女の子はラスト、年上の女性を好きになっていることが分かってくる。
常連の元女優の客はオーディションに受かろうと必死だし、独身の仕立て屋の女性は認知症の姉のために淡い恋を断念せざるを得ない。それぞれ事情がある。
しかし暗い話ではない。人間くさく、バイタリティがある。見終わって後味がいい。映画を見る前は「紛争の多いレバノン」という印象を持っていたが、この映画ではフランス語も聞こえてきた! また、フランス映画のような色彩の豊かさを持っていた。それもそのはず、この国はフランスの委任統治時代があり生活スタイルがかなり欧米化しているのだった。

(by 新村豊三)

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