オムニバス映画「アジア三面鏡2016:リフレクションズ」・・・行定勲監督の「鳩 Pigeon」など

2年前に撮られた「アジア三面鏡2016:リフレクションズ」がやっと一般公開された。その年の東京国際映画祭では上映されている。フィリピン、日本、カンボジアの気鋭監督が自分の国の人々を描く短編オムニバスの作品で、上映時間は3本で118分。

上映順に最初はフィリピンのブリランテ・メンドーサ監督の「SHINIUMA Dead Horse」
昨年、この監督の「ローサは密告された」が日本でも公開されている。
北海道ばんえい競馬場で働く、不法滞在を30年以上続ける初老のフィリピン人男性が警察に逮捕され本国に送還される。映画で初めて知ったが、一人飛行機に乗せられ一人帰国する。
男は弟の元へ行くが弟の妻からは歓迎されていないことを知り、家を出てフィリピンにもある競馬場で働き始める。厩舎には老馬がいて自分と重なって見える、といった話だ。
「ローサは密告された」もそうであったが、リアルで厳しいドキュメントのようなタッチで、主人公が強い存在感を示す。しかし率直に言うと、重苦しく閉塞感を持ったままで終わっている印象を受ける。もう一工夫欲しかった。

次が、我が行定勲監督がマレーシアで撮った「鳩 Pigeon」だが、これは期待以上に素晴らしかった。
マレーシアのペナン島(「世界遺産」で、日本人の移住者も多い)で、現地のメイドがいる住宅で暮らしている高齢の日本人男性(津川雅彦)がいる。資産は相当にあるようだが気難しく認知症の症状も出ているような人物だ。
この老人と、メイドに来たばかりの日本語が多少できる若い女性との交流が始まる。二人を繋ぐのが、老人が住宅の屋上で何羽も飼っている鳩だ。
二人は一緒にドライブして美しい海を見に出かけたりする。津川が砂浜に座り、少年の日々に戻ったようなあどけない表情を見せるのが忘れられない(これを見て、40年前の傑作「サンダカン八番娼館」で元からゆきさんを演じた田中絹代の神がった演技を思い出したほどだ。サンダカンも実はマレーシアにある)。
この一見取っつきにくかった老人も戦争の影を引きずっていることが段々に分かってくる。観客はこの人物が理解出来ていく。そこがいい。一つの日本人論になってくる。
鳩の使い方が映画的に実に上手い。敢えて書けないが、ラストの展開の上手さにほれぼれしつつ、二人のヒューマンな心の交流にホロッと来る。
美しい街や青い海や空を捉えた撮影もよく、短編だが映画的に豊かな印象を与えてくれる傑作だと思う。
また、この女性は私が昨年洋画のマイベストにしたほど好きな「タレン・タイム 優しい歌」を演出した女性監督ヤスミン・アフマドのミューズでもあった。それがとても嬉しい。

最後はカンボジアの女性監督が演出した「Beyond the Bridge」。内乱で荒廃したカンボジアに橋を架けるプロジェクトの責任者だった初老の日本人が帰国前に、30年ほど前に悲恋に終わったカンボジア女性との恋を振り返る話だ。
残念ながらカンボジアの歴史を描く文化映画とやや気恥ずかしいラブストーリーがうまくかみあっていない印象を持った。しかし日本がこの国に対し友好のための沢山の橋を建設していた事実を知ったことは良かった。

映画「0.5ミリ」監督:安藤桃子 出演:安藤サクラ 津川雅彦 柄本明 坂田利夫 草笛光子ほか

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さて、好きな映画をもう一本!
津川雅彦は上記の「鳩 pigeon」が遺作であるが、彼は、2014年にも我が安藤サクラが主演する映画「0.5ミリ」で貴重な役を演じている。認知症が出始めた妻の面倒を見ている元大学教授だが、ヘルパーである安藤に延々と「戦争は絶対にやってはいけないんだよ」と語りに語るシーンが圧巻だった。全体の完成度を無視して7~8分ずっと長回しで語る。
年取って老いてきてヨボヨボになってきても、これだけは何としてでも伝えるのだという人間の執念(一人の日本人の執念、と言うべきか)に満ちていた。語った津川も津川だが、この作品の脚本を書いて演出している安藤サクラの実姉安藤桃子の腹のすわりぶりも見事であった。この作品で、姉は現在の日本映画の女性監督のトップに躍り出たと私は思っている。

(by 新村豊三)

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