高齢の爺さんの2本の映画。フランスの「ハッピーエンド」とアメリカの「ラッキー」

8月30日の回に引き続き、高齢者が主人公である映画を2本紹介したい。現代のフランスとアメリカを舞台に全く対照的な高齢の爺さんが登場するのだ。

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まず、前作「愛、アムール」では結末に暗澹たる想いを抱いたミヒャエル・ハネケ監督の作品の「ハッピーエンド」だ(本年3月に公開)。
実はこの監督の作品で好きなものは一つもないのだが(ごめんなさい)、昨年公開の「未来よ、こんにちは」「エル ELLE」で大好きになったフランス人女優イザベル・ユペールが出ているので、予備知識なしで見に行ったのである。
そうしたら、驚いたことに面白いのなんのって。フランスで建設会社を経営している裕福な家庭を巡る話であるが、登場人物の冷たさ、偏頗さが堪らない。人間の持つ「変態」と、精神の闇の部分が描かれており、ゾクゾクしたほどだ。

召使までいる大きな邸宅に、高齢の老人、長女が暮らしており、そこに別のところに住んでいた孫娘(長男の前妻の娘)がやってきて暮らし始める。
この映画は、まず、ストーリーがシンプルだがなかなかに面白い。家族の人間関係が上手くいかない。そこに会社が手掛ける工事現場で大きな事故が起きてしまい、会社を経営する長女の息子もその対応が上手くいかず悩んでしまう。
そしてまた、ここに長男の「男と女の問題」が絡んで来る。先ほど「変態」と言ったのは、彼のある行為を指すが、この映画は妙にリアルに人間の日常を描いていく。

登場人物の存在感が抜群だ。またも自然体でリアルに存在するイザベル・ユペールは言わずもがな、何と言っても、爺さん役のジャン=ルイ・トランティニアンがいい。老人の知恵と経験がありそうに見えながら、人間の闇の部分を持つキャラクターを好演している。特に、いつもスマホを見ている孫娘との終盤の会話が面白くも怖い。
ストーリーの肝をもう一つだけ書くと、爺さんは自殺願望があり、映画のラスト近く、孫娘とアッという行為を行う。

見る前はまさかこんなに面白く感じるとは考えていなかった。面白く見てしまうのは、私が少しメンタルを病んでいるからだろうか。多分そうだろう、しかし、それでもいい、映画は正直面白いのだ。
この映画、好き嫌いが分かれると思うが、この映画にハマる人はハマるのではないか。

映画「ラッキー」監督:ジョン・キャロル・リンチ 出演:ハリー・ディーン・スタントン デビッド・リンチ ロン・リビングストン他

監督:ジョン・キャロル・リンチ 出演:ハリー・ディーン・スタントン デビッド・リンチ ロン・リビングストン他

さて次は、のんびりしたアメリカ映画「ラッキー」(これも3月に公開)。アメリカの南部で一人暮らしをしている爺さんの日常と死生観を描く。
実際に90歳を超えた、痩せてギョロリとした眼をし、偏屈な感じもあるハリー・ディーン・スタントン(85年の「パリ、テキサス」などに出演)が主役を飄々と演じている。
毎朝起きて、体操をし、地元のコーヒーショップに行く。夜は行きつけの酒場で強そうな酒を飲む、そういうルーチンの描写がいい。体調を崩して病院に行くと、医者から今の生活を変えなくてもいい、煙草も吸い続けても平気と言われるところが面白い。

さて私が好きなのはこんなシーンだ。彼は結婚しなかったらしいが、酒場で友人に「人生は?」と聞かれて、「無だ」と答える。それをどう受け入れるかという問いには、さらりと「スマイル」だと答える。つまり、人生は結局、無に帰すだろうが、それを従容として自然に受け入れるということだと、私は受け取った。

爺さんは、親しくなったスペイン系の女性の息子の戸外で行われる誕生日パーティに行き、スペイン語で朗々と愛の唄を歌う。そしてその場にいる皆から喜ばれる。ささやかな幸福で見ているほうも気持ちがいい。

以上紹介した2本の映画。片やフランスのブルジョアの爺さん、片やアメリカの片田舎のプアホワイトの爺さんだが、その対照的な生活と人生観が描かれていて、共に面白く、それぞれ興味深い。

(by 新村豊三)

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