さて、また別の僧と洞山和尚の問答です。
僧:「文殊菩薩と普賢菩薩が二人そろってお越しくださったとします。和尚ならどうします?」
洞:「水牛の群れの中に叩き込んでやるよ。」
僧:「・・・和尚は矢のように速やかに地獄行きですな。」
洞:「いやもう全く、おかげさまで!(笑)」
洞山和尚は「暑さや寒さがないところに行けばいい」と言いました。
これは先に挙げた洞山和尚理論の「多様な現象の中に本体が潜んでいる」に相当します。
また、「いったいどうやったらそこに行けるか?」と訪ねた僧に対し、洞山和尚は「暑い時は焼け死ぬほど熱くなり、寒い時は凍え死ぬほど冷え込ませろ!」と言いました。
これは「本体はひとつでも多様な現象がある」に対応します。
言葉ではそうなるのですが、実際には「本体」と言っても「現象」ですし、その逆もまた真なのです。
この辺の理屈は「曹洞録」の中で詳細に語られていますが、臨済の一派であれば、そんな細々したことは全部無視してズバリと核心を突きます。
まぁ、どちらが良い悪いということはなく、単に芸風の違いに過ぎませんけれども。
このエピソードに対し、ある人は「いいねぇ、暑さ寒さなど気にするなってことだね!」などとわかったようなことを言いますが、まるっきり間違っています。
翠微和尚の弟子の僧が師匠に質問しました。
僧:「達磨大師は、なぜインドから中国までやってきたのでしょうか?」
翠:「周りに人がいなくなってから教えてやるよ。」
僧は和尚を裏庭まで連れていくと言いました。
僧:「ここなら誰もいません。和尚、答えを教えて下さい!」
翠:「あそこの竹は、あのように長くなることができた。こちらの竹は、このように短くなることができている。」
それを聞いた僧は直ちに真実を悟ったとか。
また、曹山和尚が若い頃、先輩の僧に訪ねました。
曹:「いやぁ、毎日毎日暑くてたまりませんね・・・ この暑さを避けるためには何処に行ったらよいのでしょうか?」
僧:「煮えたぎるお湯や燃え盛る炭火の中に逃れたらいいよ。」
曹:「・・・なぜ煮えたぎるお湯や燃え盛る炭火の中に逃れるといいのでしょうか?」
僧:「どんな苦しみもそこには入り込めないからだよ。」
おわかりでしょうか?
例え離れた家にいたとしても、悟った人たちの会話は似てくるのです。
―――――つづく
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