とある僧と趙州(じょうしゅう)和尚の会話です。
僧:「趙州には立派な石橋があると聞き、死ぬまでに一度は見てみたいものだと思っていましたが、いざ見てみたら、ただの粗末な丸木橋じゃないですか!」
州:「ホウ、オマエさんの目には丸木橋しか映らんか。よく見てみなされ、石橋が見えるハズじゃぞ!」
僧:「・・・貴方の仰る「石橋」とはいったい何のことでしょうか?」
州:「馬もロバも向こうに渡せるぞ!」
この僧は初対面でマウントを取るべくいきなり「粗末な丸木橋やないかい!」と趙州和尚をディスったわけですが、「石橋が見えないのはオマエの目のせいだ」と返されてしまったわけです。
言葉は日常会話レベルのものですが、こういった物言いで人を釣るのが趙州和尚の得意技でして、この僧もアッサリと釣り針にかかりました。
で、「石橋って何のこと?」と言わされてしまい、「馬もロバも向こうに渡せる」と言われてしまったと。
趙州和尚は、臨済和尚のようにいきなり怒鳴りつけたり、徳山和尚のように棒で殴りつけたりせず、ただ日常会話だけで相手を活かしたり殺したりすることのできるお方でした。
冒頭の会話も禅問答にありがちなナゾナゾ合戦のように見えますが、なかなかとらえどころのないものとなっています。
ある日、趙州和尚と首座(しゅそ:修行僧のリーダー)が石橋を通りかかりました。
州:「これはいったいどんな人がお造りになったのじゃろうね?」
首:「李膺*が造ったと聞いています。」
*李膺(りよう:後漢(約2000年前)の人。信義に厚く有能で蛮族に恐れられたという)
州:「造るときはどこから手をつけたんじゃろうね?」
首:「・・・・・・」
州:「ひごろ石橋の話をしているというのに、聞かれたらどこから手をつけたらよいかも答えられないとは!」
―――――つづく
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