生を超え死を超え、眉ひとつ動かさずに鋼鉄を断ち切って天下無敵。
さて、今回はそんな人の話をご紹介しましょう。
雲門和尚が新入りの僧に訪ねました。
雲:「どちらからおいでかな?」
僧:「西禅和尚のところからです。」
雲:「西禅和尚は近頃どんな話をされているのかな?」
僧が無言で両手を広げて見せたところ、雲門和尚はいきなり僧をビンタしました。
僧:「・・・いやいや、まだ話の途中じゃないですか!」
今度は雲門和尚が無言で両手を広げて見せました。
僧が何も言えずにいるのを見た雲門和尚は、棒を取り出して僧を打ったとか。
「どこから来たの?」「〇〇からです。」「〇〇は近ごろどうしてる?」、ここまでは日常会話と何も変わらないように見えますが、この僧はあちこちで修行を積んだベテランでしたので、ここらで雲門和尚を試してやれとばかりに両手を広げて見せたのです。
並の和尚であればいきなりこんなことをされたら意味がわからずにアタフタしてしまうところですが、そこは達人の雲門和尚ですので一発ビンタをくらわすことで答えました。
僧は根性を発揮して「話の途中です!」と言い返したのですが、逆に雲門和尚に両手を広げられてしまって万事休す。
今度は雲門和尚に棒で打たれてしまいます。
さすがは雲門和尚、一歩一歩の足の置き場をよく心得ていらっしゃる。
道筋全体を見通しているので、ただ前しか見ていない僧とは違って後ろを振り返ることもできるというわけです。
雪竇和尚はこのエピソードに関して次のようなポエムを詠みました。
トラの頭とシッポを同時に押え込んだ!
誰もが認める世界のチャンピオン。
どうして貴方はそんなにガチなのですか!?
・・・いやいや、今回は手加減されたのですね。
中国の古い言い方で「トラの頭にまたがってシッポを押さえ込む」とは強い相手に完封勝ちすることですので、ここは文字通り雲門和尚の手腕を讃えているわけです。
僧が両手を広げてきたのですかさずビンタしたところが「トラの頭にまたがる」ところ。
両手を広げて見せ返したところ僧が無言だったので棒で打ったところが「トラのシッポを押え込んだ」ところ。
この電光石火の鮮やかな手腕こそ「チャンピオン」と呼ぶにふさわしく、その威風は全世界を駆け巡るというわけです。
いきなりグウの音もでないほど押さえ込むというのは確かに容赦なくガチですが、雪竇和尚はむしろ今回は手加減が入っているとおっしゃる。
ここで雲門和尚が手加減しなければ、世界中の人が棒で打たれることになることを知っているからです。
坊主たちの中にはこのエピソードを聞いて「いや、最初に僧が両手を広げて見せたときに、ちゃんと教えてあげなきゃダメなんじゃないの?」などと言う人がいますが、それが必ずしも僧のためになるとは限りません。
雲門和尚は相手のためを思えばこそ、安易な道は示さなかったのです。
さて、ここで読者の皆さんに質問です。
雲門和尚が「手加減して」示してくださった道とは、いったいどんなものなのでしょうか?
<どこから来たの? Ver.4 完>
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