極めて強固な鋼鉄の壁を必死に突き抜けようとしてきたが、ようやく突き抜けてみたならば、なんと自分こそが鋼鉄の壁だった・・・
さて、私はいったい何の話をしているのでしょうか?
もし貴方がこれを理解しているのなら、どっしりと関所に座り込んで凡人も聖人も通せんぼすることができるでしょう。
できない、というのであれば、まぁ私の話を聞いてくださいませ。
とある僧が趙州和尚に訪ねました。
僧:「和尚! 貴方はつねづね「究極の真実に至る道を歩くことは全く難しくない。ただ、選り好みさえしなければよいのだ」と仰っていますが、その「選り好みしない」というのはいったいどういうことでしょうか?」
趙:「「天上天下、唯我独尊」ってヤツだな。」
僧:「それこそ「選り好み」じゃないんですか?」
趙:「バカタレ! これのどこが「選り好み」だというのか!?」
僧:「・・・・・・」
「究極の真実に至る道は難しくなく、選り好みさえしなければよい」というのは禅宗の三代目正統伝承者の僧璨(そうさん)和尚のポエム「信心銘」の冒頭のフレーズですが、ほとんどの人が意味を取り違えてしまっています。
「究極の真実に至る道は難しくないけど、難しくないこともない。だから選り好みのしようなどないのさ!」などという理解では、一万年経っても真実のカゲも見ることができないでしょう。
趙州和尚のお気に入りのフレーズを使って逆質問する。
これを文字通り受け取るならば、この僧はまさに驚天動地の質問をしたと言えますが、もしも文字通りではないとしたならどうでしょうか?
さぁ、こここそが三十年かけてでも取り組むべき極めて重要なポイントです。
この僧は腕に覚えのあるベテランでしたので、真っ向からトラのヒゲをひっぱりながら言ったわけです。「それこそ「選り好み」だ!」、と。
そんじょそこらの和尚であれば、いきなりこんなことをされたらアタフタするばかりでしょうが、さすがは趙州和尚、「これのどこが「選り好み」だ!?」と反撃してグウの音も出させませんでした。
もしも貴方がここのところを突き抜けることができたなら、巷にあふれる罵詈雑言やくだらない議論の数々が極上のご馳走に変わります。
そして貴方は趙州和尚の真摯な真心を知るでしょう。
「それは「選り好み」だ!」、「バカタレ! どこが「選り好み」だ!?」。
禅の師匠を名乗るからには、このように翅のひと打ちで海を割り、深海に潜むドラゴンをパックリ呑み込むガルーダのような手腕がなくてはいけません。
このエピソードに対して、雪竇和尚は次のようなポエムを詠みました。
海のように深くて、山のように固い。
蚊やアブが猛風を巻き起こし、
オケラやアリが鉄の柱を揺り動かす。
選んだり、より分けたり、
まさしく軒先の布張りの太鼓ですなぁ。
趙州和尚が「天上天下、唯我独尊」と言ったり「バカモノ」と言ったりしたことを、雪竇和尚は「海のように深くて、山のように固い」と評しました。
「蚊やアブが猛風を巻き起こし、オケラやアリが鉄柱を揺り動かす」というのは質問者である僧の豪胆さを讃えているのです。(これはまさに上級者のやり口だからです)
僧の力量を認めたからこそ、趙州和尚は本気を出して「バカタレ! これのどこが選り好みだ!?」と答えました。
このやりとりの意味がわかるというのであれば、貴方は本来の力を充分発揮できているといえるでしょう。
これまでに何回も申し上げましたが、「問いは答えの中にあり、答えは問いの中にある」のです。
ほらね? 「軒先にぶら下がった布張りの太鼓」みたいなものでしょう?(笑)
<選り好みしないということ (1)完>
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