誰からも教わらない智慧によって仏そのもののハタラキを発揮し、相手を選ばない慈悲によって頼られる前から友となる。
言葉ひとつで活かしも殺しもし、動きひとつで泳がせもすれば捕まえもする。
さて、私はいったい誰の話をしているのでしょうか?
雲門和尚は弟子たちに向かって言いました。
「いいかオマエたち! この世界において無限の空間と時間の中に存在する「ひとつの宝」は各人の肉体の中に隠れている。手にした灯りの上に門を乗せ、本殿に乗り込むのだ!!」
なんとも雲門和尚らしい言い方ですが、大げさを通り越してもはやSFの域、ハッキリ言って意味不明ですよね。(言われた弟子たちも困っただろうなぁ・・・)
実はこれは、訳聖クマラジーヴァ(*法華経、阿弥陀経、大般若経、維摩経などの翻訳で知られる訳経僧)を支えた四天王のひとりである肇法師の著作「宝蔵論」からの引用です。
肇法師は今から千八百年以上前の人で、もともとは荘子や老子の研究者だったのですが、ある時「維摩経」を書写したことから仏教に転向して仏典翻訳の国家プロジェクトを率いるクマラジーヴァのもとに参じ、教えの奥深くにまで到達しました。
残念ながら彼はひょんなことから罪を得て若くして処刑されてしまうのですが、その際、七日間の猶予をもらって書き上げたのが「宝蔵論」なのです。
そして引用されたのは要するに「値段がつけられないほど貴重な宝が、この現象世界に隠されている」という意味の部分です。
鏡清和尚と曹山和尚の会話に、次のようなものがあります。
鏡:「宝蔵論には「この世の真相は清浄、つまりキレイさっぱり何もない。肉体なんかあるわけがない」と書かれておるなぁ。」
曹:「真理はそうかも知れんが、現実とどう折り合いをつけるかだな。」
鏡:「真理はあるがまま、現実もあるがまま・・・」
曹:「いや、ワシひとりならそれで誤魔化せるかも知れんが、聖人たちには通じないぞ!」
鏡:「そんなこと聖人たちはとっくにご存知さ。」
曹:「表向きはガチガチだが裏はユルユルだなぁ・・・」
まぁ、とにかく「ひとつの宝」なんてものは誰だってもとから持っていて、充分過不足ないということですね。
―――――つづく
☆ ☆ ☆ ☆
電子書籍化 第2弾!『超訳文庫 無門関 Kindle版』(定価280円)が発売されました。公案集の代名詞ともいうべき名作を超読みやすい現代語訳で。専用端末の他、スマホやパソコンでもお読みいただけます。
第1弾の『超訳文庫アングリマーラ Kindle版』(定価250円)も好評発売中です。<アングリマーラ第1話へ>