梁を建国した武帝が大の仏教ファンであったことは第一話「武帝と達磨大師」でも触れましたが、ある時彼は当時の中国において最も仏教に詳しいとされていた傅(ふ)大士を呼び出して「金剛経」の講義をしてもらおうとしました。
傅大士は指示に従って演壇に登りましたが、服の袖で演台をサッと払うと何も言わずにそのまま退席してしまいました。
唖然としている武帝に宝誌和尚(注:第一話にも登場したサイキック坊主)が問いかけます。
宝誌:「陛下、何が起きたかおわかりになりますか?」
武帝:「・・・いや、何がなんだかサッパリわからん。」
宝誌:「全くしょうがないですねぇ・・・ せっかく傅さんが完璧な金剛経の講義をしてくださったというのに。」
梁の武帝は本名を簫衍(しょうえん)、字は叔達といいます。
若い頃から文武両道で知られ、数々の功績をあげて皇帝の位につきました。
人柄は極めて温厚かつ孝行で、五経(易経、詩経など)の解説書を書いて自ら講義するほどの学者であって道教にも詳しかった彼ですが、物足りなさを感じて仏教に転じると、放光般若経を講義できるまでになりました。
宝誌和尚はといえば「怪しげな術を使って人心を惑わせるヤツ」ということで捕まって牢に入れられていたのですが、分身の術を使って街中で普通に遊んでいるという話を聞いた武帝が面白がって側におくようになりました。
実際、宝誌和尚は神出鬼没であったとのことです。
当時、傅大士は自ら沙羅双樹を模した二本の木を植えて「もうすぐ解脱する」と周囲に宣伝し、武帝に手紙まで書いていました。(君臣の礼にかなっていないということで不受理となった模様)
ある時武帝が宝誌和尚に金剛経の講義をしてもらおうとしたところ、宝誌和尚は言いました。
「今、街に魚を売りに来ている傅大士という者がおります。金剛経でしたら私よりも彼のほうがよほど上手く講義できると思いますよ。」
で、実際に呼び出して講義させてみたところが、冒頭のように一言も話さずに演台をサッと払っただけで退席してしまったという次第。
―――――つづく
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