天の中心部を握って振り回し、地をでんぐり返す。
ひと目で龍とヘビを見分けて軽々と猛獣をひっ捕まえ、何を言ってもピタリと決まる。
今日はそんなイカした人のお話をさせてくださいませ。
仰山和尚が三聖和尚に尋ねました。
仰山:「ところでオマエさんは何という名前じゃな?」
三聖:「慧寂です!」
仰山:「・・・いや、それはワシの名前じゃが?」
三聖:「私の名前は慧然といいます!」
仰山:(大爆笑)
三聖和尚は臨済和尚の一番弟子で、若い頃から諸方にその名を知られるやり手でした。
臨済和尚のところを卒業してからあちこち行脚して歩きましたが、まだ若い三聖和尚をどの寺も丁重にもてなしたとのことです。
行脚に出た三聖和尚が真っ先に訪ねたのは、当時1500人以上の弟子を抱えてブイブイいわせていた雪峰和尚のところでした。
三聖:「お尋ねしますが、もしも、金のウロコをもち、厳重に仕掛けられた網を抜け出してくるような魚がいたとしたなら、そいつにふさわしいエサって、いったいどんなものでしょうね?」
雪峰:「抜け出してこられたら教えてやるよ。」
三聖:「へっ! 1500人も弟子がいる大先生のくせに、まともに問答もできねぇのかよ!!」
雪峰:「ワシは忙しくてな、それどころじゃないんじゃ!」
またあるとき、サルの群れに出くわした雪峰和尚は指さして言いました。
雪峰:「皆それぞれの背中に古い鏡を背負っているぞ!」
三聖:「いまさら古い鏡なんか持ち出してどうするつもりなんですか!?」
雪峰:「・・・ヒビ割れちまったな。」
三聖:「へっ! 1500人も弟子がいる大先生のくせに、まともに問答もできねぇのかよ!!」
雪峰:「ワシは忙しくてな、それどころじゃないんじゃ!」
注:これらのくだりは第四十九則に既出
三聖和尚が次に訪ねたのが仰山和尚のところでした。
仰山和尚は頭の回転が早い三聖和尚をたいそう気に入って、修行僧たちのリーダーとして扱ったといいます。
ある時、仰山和尚のところに役人がやってきました。
仰山:「オマエさんはどんなお役目についておられるのじゃな?」
役人:「推官(地方の裁判官。証拠と事実から「事実を推定」する役目)です。」
仰山:(手元の払子を立てながら)「ほう、それではこれを推してみてもらえんかな?」
役人:「・・・・・・」
役人が何も答えられなかったので、仰山和尚は弟子たちにこの話を振りましたが、誰一人として気の利いたことを言える者はいません。
仰山和尚は病気で寝込んでいる三聖和尚の意見を聞くべく使者を送りました。
三聖和尚の返答が「エライことになりましたね!」というものだったので、仰山和尚はもう一度使者を送って「いったいどんなことになったのか?」と尋ねさせました。
すると三聖和尚は「再犯の罪は重いですぞ!」と答え、仰山和尚は深くうなずいたとのことです。
仰山和尚は三聖和尚があまりにも気に入ったので、彼が卒業するにあたって伝来の杖と払子(百丈和尚は禅版と座布団を黄檗和尚に、杖と払子を潙山和尚に伝えており、潙山和尚はそれを仰山和尚に伝えていた)を渡そうとしましたが、三聖和尚は「私には他に師と仰ぐお方がいるのです!」と言って受け取ろうとしません。
そこで仰山和尚が問いただしたところ、臨済和尚の跡継ぎであることが判明したのだとか。
―――――つづく
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