全世界をぐっと抑えつけて微動だにさせず、全人類にぐうの音も出なくさせる。
それが禅の達人のやり方です。
ビーム光線を発射し、天下をくまなく照らし出す。
それが禅の達人の頭頂部にあるダイヤモンド・アイです。
触れただけで鉄を金に変え、また金を鉄に変える。
それが禅の達人が持つ杖の働きです。
さらには全人類にぐうの音も出なくさせるだけでなく、地の果てまで退き下がらせる。
それが禅の達人の剣幕です。
さて、今回はそれがあまりうまくいかなかった事例を見てみましょう。
とある僧が桐峰庵主(とうほうあんじゅ:庵主は庵を結んでいる僧のこと)に尋ねました。
僧:「もし、今ここでトラに出会ってしまったならどうしますか?」
桐峰:「ガオーッ!!(トラが吼えるマネ)」
僧:(恐れる仕草)
桐峰:(大爆笑)
僧:「いやいや、和尚も人が悪いですね。」
桐峰:「このワシをどうにもできんじゃろう?」
僧:「……」
このエピソードに対して雪竇和尚は次のようにコメントしました。
「全くダメだとは言わないが、この二人のコソドロときたら耳をふさいで鈴を盗むのが関の山だろう。」
桐峰庵主は、百丈和尚門下の四庵主(大梅、白雲、虎渓、桐峰)の一人であって腕前は当然にして一流。
質問した僧もなかなか腕に覚えがある人物。
なのに雪竇和尚は「今回のは出来がイマイチ」だなどと仰る。
雲門和尚は言いました。
「修行のための行脚というものは、ただあちこち尋ねまわればよいというものではない。
つまらぬナゾナゾ話を吹っかけて、やれ「禅」だのやれ「道」だのとゴテゴテと言葉を積み重ね、メモを取ったり暗記したりした上で大勢で雁首そろえてグダグダと言い合う。
散々に食い散らかして、寝ぼけたことばかりぬかした挙句に「仏法を完全に理解した!」などと言う。
こんなことではいつまでたってもケリがつく日は来ないぞ!」
山奥にある桐峰庵主の庵を訪ねた僧は「ここでトラに出会ったらどうするか?」と尋ね、桐峰庵主はトラが吼えるマネをしました。
この時点で僧は失敗に気づいたものの、気がつかなかったフリをして恐れる仕草でゴマかしました。
その後、僧は「和尚は人が悪い」と言い、桐峰庵主は「ワシをどうにもできないだろう?」と言いました。
それ自体は悪くないのですが、このままではどちらも探りを入れたままになってしまってケリがつきません。
この二人は実力はあるのにそれを充分に発揮することができなかった、ということで雪竇和尚に「耳をふさいで鈴を盗むのが関の山」などと言われてしまったのです。
お互いに百万の軍勢を率いながら、パシパシとホウキで叩き合っただけみたいなものですね。
ボケさせておくばかりでツッコミを入れなかったり、ボケを待たずにツッコミ続けるだけというのでは、人に笑われることはあっても人を笑わせることはできません。
―――――つづく
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