ではいったいどうしたら「耳をふさいで鈴を盗」まなくて済むのでしょうか?
今回のエピソードに対して雪竇和尚は次のようなポエムを詠みました。
見つけたときにゲットしなければ、長らく後悔するハメになる。
見た目は立派なトラだけど、ツメもキバもありゃしない。
せっかく伝来の芸が披露されたというのに、誰も見ていないんじゃあ、やりきれない。
立派な大人たちよ、トラのシッポをつかんでヒゲをひっぱったのをちゃんと見ていたかい?
「ここぞ!」という時に発揮できない能力では、ないのと同じです。
桐峰庵主が「ワシをどうにもできまい」と言った時点で、トラにふさわしいエサを投げてやらないと。
そうすれば庵主も続きの言葉があったでしょうに。
かつて百丈和尚は弟子入り志願の黄檗和尚に尋ねました。
百丈:「どこから来たのかな?」
黄檗:「山のふもとでキノコを採ってきました。」
百丈:「トラがいなかったかい?」
黄檗:「ガオーッ!!(トラが吼えるマネ)」
百丈:(オノで切りつける仕草)
黄檗:(百丈和尚の胸ぐらをつかんで思いっ切りビンタ)
その夜、百丈和尚は弟子たちに向かって言いました。
「おいオマエたち、この山には一匹のトラがいるから注意しろ!
ワシは今日ガブリとやられちまったよ。」
この話を受けた潙山と仰山の両禅師のひそひそ話は以下の通りです。
潙山:「黄檗和尚のトラの話をどう思う?」
仰山:「まず和尚のお考えをお聞きしたいですね。」
潙山:「百丈和尚はオノひと振りで切り殺してしまえばよかったんじゃないかな?」
仰山:「いや、自分はそうは思いません。」
潙山:「ほう、じゃあどう思うのかね?」
仰山:「そんなことをしたところで、跨られて頭とシッポを抑え込まれる結末に変わりはないと思います。」
潙山:「オマエ、キツイこと言うなぁ……」
雪竇和尚のポエムの最後の部分はこの話を踏まえたものなのですが、さて、賢明なる読者の皆さん、貴方は噛みつかれずにトラのシッポとヒゲをつかむことができますか?
できないというのであれば、せめて鼻づらを引き回されないようにしたいところですね。(笑)
<桐峰庵主のトラ 完>
☆ ☆ ☆ ☆
電子書籍化 第2弾!『超訳文庫 無門関 Kindle版』(定価280円)が発売されました。公案集の代名詞ともいうべき名作を超読みやすい現代語訳で。専用端末の他、スマホやパソコンでもお読みいただけます。
第1弾の『超訳文庫アングリマーラ Kindle版』(定価250円)も好評発売中です。