まず固定観念を打ち砕く。
それが禅の達人が初心者を導くやり方です。
そして話が深まったら、そこで存分に大暴れできるようでなければいけません。
相手が抱える心の闇をしっかりとつかみ、厳重にかけられたカギや鎖を撃破して涼しい顔をしてみせる。
今回もまた、そんな人の話をさせていただきましょう。
玄沙和尚は言いました。
「昔も今も、偉い坊さんたちはみな口をそろえてこう言ったもんだ。『相手を見て、うまいことやれよ』とな。
例えばだ。
もしこんな三種類の病人が来たとしたら、いったいどうしたらよいのだろうか?
目が見えない相手が来たとする。何しろ目が見えないのだから、お得意のゼスチャーは全く通じない。
耳が聞こえない相手が来たとする。あれこれと言い立てたところで、聞こえていないのだから全く通じない。
口がきけない相手が来たとする。話すことができないのだから、その理解の度合いを確認することができない。
さてさて、君たちならそんな相手が来た時、どうやって対応するかね?
できません、などと言うのであれば、仏教なんて何の役にも立ちやしません、と白状しているようなもんだぜ!」
それを聞いた一人の修行僧が雲門和尚に質問しようとしました。
雲門和尚は言いました。
「キミ、まずお辞儀をしなさい」
修行僧が立ち上がって頭を下げようとした途端、雲門和尚は杖を構えて猛然と突き出しました。
思わず飛びのいて身をかわす修行僧。
それを見て雲門和尚は言いました。
「ふむ、お前さん、目は見えているようじゃな」
雲門和尚はさらに言いました。
「そんなところにいないで、もっと近くに来なさい」
修行僧が恐る恐る近づいていくと、雲門和尚は言いました。
「ふむ、お前さん、耳も聞こえておるようじゃな」
雲門和尚はさらに言いました。
「ホレ、お前さん、わかったかな?」
修行僧は答えました。
「……いいえ、全くわかりません」
雲門和尚は言いました。
「ほう、お前さん、ちゃんと口もきけるというわけじゃ」
ここで修行僧は、ハッと気づいたそうです。
―――――つづく
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