ふた通りの説法 2/2話(出典:碧巌録第九十五則「長慶有三毒」2/2話

保福和尚は長慶和尚がつまらぬ問答を仕掛けてきたので「それじゃあ、仏さまはいったいどういう説法をしたんだい?」とツッコミました。

長慶和尚は「耳が聞こえないヤツに言ってもムダ」などとトボけてみせましたが、まぁ、これは大失敗です。

案の定、保福和尚に「オマエは二番目の説法をしようというのだな?」と図星を突かれ、苦しまぎれに「それじゃあ、仏さまはいったいどういう説法をしたんだい?」などと逆質問したものの、「茶でも飲んで、目をさまして来い!(=喫茶去。寝ぼけたことを言うな、の意)」と言われてしまうハメになりました。

長慶和尚ともあろうベテランが、仕掛けようとして逆にコテンパンにやられてしまったのです。

さて、ここで読者の貴方に質問です。

仏さまの説法は、いったいいくつあるのでしょうか?

その点を踏まえてこの問答をよく検討するならば、なんのことはない、二人とも大失敗であることがわかるでしょう。(保福和尚は良かれと思って長慶和尚のためにヒントを出したのですが……)

などと言うとすぐに「いやいや、確かにグダグダな問答だけど、保福和尚が常に優勢だったので長慶和尚の負けということでいいんじゃないの?」などと言う人が現れる始末。

昔の人のやり方は、そんな単純なものではないというのに……

ただ言葉ヅラだけをなぞって「長慶和尚は気の利いたことを言えなかったから二番目なんだ。で、保福和尚の「茶でも飲んで、目をさまして来い!」のツッコミが一番目というワケだね」などと言う。

こんな調子では五十六億七千万年後に弥勒菩薩が降臨するまで待ったところで、彼らの真意は到底つかめません。

かといって、「長慶和尚の『耳が聞こえないヤツに言ってもムダ』はイケてるんだよ! ダメなのは保福和尚の『茶でも飲んで、目をさまして来い!』の方だ!」などというのは、さらに大間違いです。

この話は「身体中が眼」と「全身が眼」のどちらが正しいかという問題に似ています。

まずは身辺整理をきっちりとつけてからでないと、この問答に取り組むことは難しいでしょう。

五祖法演和尚が言うところの「馬前の相撲(=瞬時に正しく対応しないと大ケガをする案件という意味)」ってヤツですね。

今回のエピソードに対して、雪竇和尚は次のようなポエムを詠みました。

一番目だとか二番目だとか……
よどんだ水たまりなんかにドラゴンは見向きもしませんよ。
まぁ、月はきれいに映るかも知れないけれど。
(ドラゴンの棲むところには風がなくてもさざ波がたつというよね)
稜(りょう=長慶和尚の名)先生、稜先生、そんなんじゃ登竜門でオツムをぶつけますぞ!

何も棲まない水たまりに映る月のように、いつまでも同じ境地に居続ける。

そんなことでは冒頭の問答の真意は到底つかみきれません。

仏さまの説法に「一番目」も「二番目」もあるものですか!

長慶和尚は登竜門を登りきる実力を備えたドラゴンなのですが、今回ばかりは保福和尚に一撃で叩き落されてしまったようですね。

<二通りの説法 完>


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