巴陵和尚の吹毛剣 2/3話(出典:碧巌録第百則「巴陵吹毛剣」)

この「サンゴの無数の枝先が月光を受けて輝きあっている」というくだりは、雪竇和尚に負けず劣らずのポエマーだった禅月和尚のポエム「なつかしい友だち」の中に出てくるものです。

(以下に一部を引用します)
なつかしい友だち by禅月貫休

世界を取り囲んでいる鉄囲山(てっちせん)よりも分厚く、西王母に仕える仙女の衣よりも薄い。

蜀の名産品である錦に織られた鳳凰はくるくると舞い踊り、サンゴの無数の枝先が月光を受けて輝きあっている。

大富豪の王凱(おうがい)は宝を厳重に隠し過ぎてどこにやったかわからなくなり、貧乏を楽しんでいるハズの顔回は空腹時に雪に降られて困り顔。

ヒノキの古木はすっくと立って雷に打たれても折れることなく、雪の衣をまとった石女(うまずめ)は仙界の桃の帯玉をつけている。

帯玉をつけて竜宮城を悠然と歩めば、銀の刺繍はゆらゆら、きらきら。
ブラックドラゴンが顎の下の宝玉を盗まれたことに気づいているかい?

巴陵和尚はこのポエムの中から一句を取り出して、「吹毛剣とはどのようなものか?」という質問に答えたわけです。なんとも凄まじい早業だとは思いませんか?

「吹毛剣とは、毛を吹きかけたらスパッと切れるほどの鋭い剣のこと」というのが一般的な答えなのですが、巴陵和尚はまさにそのハタラキを質問者の僧に対して示してみせたというわけです。

今回のエピソードに対して、雪竇和尚は次のようなポエムを詠みました。

デコボコを真っ平らにしようと頑張る。

本物の達人技はむしろヘタに見えるもの。

指先に、はたまた手のひらに出現し、天に突き刺さって凄まじい光で地上の雪を照らし出す。

熟練の鍛冶屋でも研ぎ出せない。

腕利きの刀工でも磨きあげられない。

なんと素晴らしい! なんと素晴らしい!

サンゴの無数の枝先が、月光を受けて輝きあっている!!

昔の任侠人たちは、街角で弱い者いじめを見つけたら、いじめているヤツの頭を速攻で切り落としたと言いますが、禅の師匠たちもまた眉に隠した宝剣や袖に隠したゴールデンハンマーで同じことをやってのけるという次第。

ただ、巴陵和尚の答えは少々上手すぎたのかも知れません。
だって頭を切り落とされた相手が気がついていないというのですから。

伝説の剣が「天に突き刺さって凄まじい光で地上の雪を照らし出す」と言いますが、盤山和尚はこう言っています。

「何かを照らし出しているのが光なのではない。そもそも照らし出されるべき『何か』などないのだ。光も照らし出されるべき何かもなくなったとき、そこに残るものはいったい何だ?」

雪竇和尚の言う通り、この伝説の剣は指先に出現したり手のひらに出現したりします。

雪竇和尚の先輩だった慶蔵主(けいぞうす)は、かつてこの話をここまでしたところで手を立てて見せ、「見えるか!」と言ったそうですが何をやっているんだか・・・

「ではいったいどこにあるのか?」ですって?
あそこもここも、全てが吹毛剣でなければダメなのですよ!(笑)

というか、吹毛剣の場所なんかにこだわっているようでは、「魚はとっくに登龍門を越えて龍になってしまったというのに、真夜中の川辺で必死に水をさらって探しているアホがおるぞ!」と言われても仕方ないのです。

―――――つづく


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