巴陵和尚の吹毛剣 3/3話(出典:碧巌録第百則「巴陵吹毛剣」)

伝説の名剣といえば、中国の禅語辞典「祖庭事苑」には「孝子伝」から引用された次のようなエピソードが載っています。

(以下、引用)
楚の国王夫人は寝苦しい夏の夜には鉄の柱に抱きついて涼んでいましたが、ある時産気づいて鉄の塊を産み落としました。

国王は腕の良さで定評のあった刀鍛冶の干将(かんしょう)を呼び出すと、その塊で剣を作るように命じます。

そして三年後に二本の剣が完成したのですが、干将は国王に一本だけしか献上しませんでした。

国王は献上された剣を箱に入れて厳重に隠しておいたのですが、剣は夜な夜な箱の中で泣き声をあげます。

不審に思った国王が物知りの家来に尋ねたところ、「恐らくその剣はペアで作られたものなのでしょう。その剣はオスであって、離れ離れになったメスのことを思って泣くのではないかと」とのこと。

それを聞いた国王は怒り狂って干将を捕らえると処刑してしまいました。

干将は捕まる前にそれを察知し、もう一本の剣を家の柱の中に隠すと妻の莫邪(ばくや)にこう言い残しました。

「太陽は北口からのぼり、南の山には松の木がある。松は石の上に生えており、その中に剣がある」

莫邪はその後ひとりの男の子を産みました。

眉間赤(みけんじゃく)と名付けられたその子が十五歳になった時に自分の父親について尋ねたので、莫邪は干将の最後の言葉を伝えました。

眉間赤は言葉の謎を解いて剣を手に入れると復讐の機会をうかがっていたのですが、国王はそれを知って眉間赤に賞金を懸けて捕らえようとします。

すると追い詰められた眉間赤のもとに一人の男が現れてこう言いました。

男:「オマエは賞金首の眉間赤だろう?」
眉間赤:「・・・そうだ」

男:「オレは甑山(そうざん)から来た者だ。オマエのかわりに父親の仇を討ってやろう」
眉間赤:「それはどうもご親切に・・・ 私はどうすればよいでしょう?」

男:「剣と、そしてオマエの頭をくれないか」
眉間赤:「わかりました。どちらもさしあげますので、よろしくお願いいたします」

剣と眉間赤の頭を手に入れた男は早速それらを献上し、大喜びしている国王に向かって言いました。

「王様、こんな不吉な頭をこのままにしておいてはいけません。油を沸かして煮崩してしまわないと!」

国王が言われたとおりに油の入った大鍋を火にかけて頭を投げ込むと、男はそれをのぞき込んで言いました。

「王様! 頭が全く煮崩れません!!」

国王が驚いて鍋をのぞき込むと、男は献上した剣を手に取って背後に忍び寄り、国王の頭を後ろから切り落としました。

国王の頭が鍋の中に落ちるなり眉間赤の頭と噛みつきあいをはじめたのを見た男は、自分の頭を切り落として眉間赤に加勢し、やがて頭は三つとも煮崩れてしまったということです。

雪竇和尚は伝説の名剣が「天に突き立って雪を照らし出す」と詠みました。

そんな凄まじい剣は「刀鍛冶の達人でも研ぎ出せず、腕利きのクラフトマンでも磨きあげられない」とも詠みましたが、これは干将のことを指しているのでしょう。

雪竇和尚はここまで詠んだところで「なんと素晴らしい! なんと素晴らしい!」と付け加えていますが、確かにこの剣はそんじょそこらの剣とはわけが違うのです。

さて、ここで読者の皆さんに質問です。

いったいこの剣のどこが、どのように普通の剣とは違うというのでしょうか?

最後の「サンゴの無数の枝先が、月光を受けて輝きあっている」も実に素晴らしい!

「天上天下、唯我独尊」とはまさにこのことですね。

ほらほら、皆さんの頭が足もとに落ちていますよ! (笑)

さてさて、百の物語もいよいよこれでお終いです。

これまでに雪竇和尚を始め大勢の師匠たちのポエムを紹介してきましたが、最後の最後に私自身のポエムを披露しましょう。

タンカーいっぱいに穀物満載。
それを一口食べようとしたヘビは、甕の中に落っこちて出られなくなる。
百もの昔話を真っ向から吹きつけて、これまでにもう何人の目をつぶしたことか!・・・

<巴陵和尚の吹毛剣 完>


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