別訳【夢中問答集】第五問 環境づくりなど不要!

足利直義:いや、それもそうなんだろうとは思いますが、人間が生きていくためには食料が必要ですし、寒さをしのぐ衣服や雨風をしのぐための住居だって必要です。

死んじゃったら仏教の修行もへったくれもないわけですから、なんとか生きながらえるためにそれらを欲するのは、これはもう仕方がないんじゃないですかね?

我らは原始人じゃないので、葉っぱを服にしたり木の根っこを食ったりして石の上で寝るというわけにはいきませんし・・・

夢窓国師:仏教修行のためにアレコレと欲しがるのは、愚にもつかない目的で欲しがるのに比べたらマシなようにも思えるが、得られれば喜んで、そうでないときは悲しむことになることに変わりはない。欲しいもの全てが揃うことは滅多にないし、もし足りることがあったとしても、この後はどうしようという心配が生まれる。で、くる日もくる日もアレコレと気をもんで過ごすことになるのじゃ。

そんなことで修行になんぞなると思うか!?

寿命が尽きる時になって、「いやいや、ちょっと待ってください! 修行できる環境を整えるのにずっと忙しくて、まだ修行できていないのですよ! なんとか修行が終わるまで、死期を延ばしてもらうわけにはいきませんか?」とでもお願いするつもりか!?

ワシの先輩は言ったよ。「死なない程度に食べられれば充分。凍え死なない程度の服があれば充分」、とな。

相当な貧乏人であったとしても、そのぐらいはあるんじゃないかな? 少なくとも原始人よりはマシじゃろう。

それにな、ひたすら真剣に努力を続けている人にはな、わざわざ求めなくとも、生きていく上で最小限度の衣食ぐらい、おのずと備わるものなんじゃよ。

かつて天台宗の開祖である伝教大師(最澄)が臨終の床についた時、補佐役の別当大師がやってきてこんなことを尋ねたそうじゃ。

「教祖様、これまではアナタのことを慕うたくさんの信者たちのお布施のお陰で、我が教団のメンバーたちはなに不自由なく暮らすことができました。しかし、アナタが死んでしまえばそれもなくなるでしょう。そうなったら我々はもう、修行どころではありませんよ! お願いです! これからどうしたらよいのか、その辺を是非教えてから死んでください!」

伝教大師はこう応えたそうじゃ。

「情けないことをいうな、バカモノ! 仏教の修行は、衣食を得るためにするものではない。最低限の衣食というものはな、一所懸命に仏教の修行をする中で自然に得られるものなのじゃ!」

さすがは伝教大師、実にイイことを言うもんじゃ。修行するために必要だからといってアレコレと求めまわることがいかにクダラナイか、よくわかるじゃろう?」

<第五問 環境づくりなど不要 完>


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