世界の北の果ての国では、何もしなくても毎年大豊作なのだそうじゃ。だから食べ物に苦労することもなく、着る物にも困らず、病気になることもない。平均寿命は千年じゃとか。
人間界の頂点に君臨する王である「転輪聖王(てんりんじょうおう)」には四種類ある。すなわち、金、銀、銅、鉄の四種であり、頂点にたつ金輪聖王の寿命は八万年じゃ。
いわゆる「欲界」と呼ばれる宇宙には六つの世界があるのじゃが、その中にある毘沙門天たちの住む「四王天」における寿命は、我らの五十年を一日として五百年、つまり二千万年近くじゃ。
その上に帝釈天(インドラ)の住んでいる忉利天(とうりてん)があり、そこでの寿命は我らの百年を一日として千年、つまり三千六百五十万年ほどじゃ。
そこから一段階あがるごとにどんどんランクアップしていって、いわゆる「第六天」と呼ばれる六番目の世界には他化自在天(たけじざいてん)が住んでいるのじゃが、そこでの寿命は我らの千六百年を一日として一万六千年、つまり千億年近くじゃ。
ここまでくると、もはや「無限」に近く思えるぐらいの長さじゃが、それでも寿命が尽きる時がくる。
その上にさらに「色界(しきかい)」「無色界(むしきかい)」というのがある。「色界」には四禅と呼ばれる世界があり、第一段階にあたる「初禅天」の支配者である梵天の寿命は四十三億年じゃ。
そして、この世界が最終的に滅びる時に現れる三つの大災害の影響も受けないといわれている「第四禅天」を支配する広果天の寿命はその五百倍、つまり二兆年を超える。
「無色界」にも四つの世界があるのじゃが、この世界は物質的な要素を一切捨て去ったところであるので、もはや衣食住や財宝といった概念の入り込む余地はない。そしてそこでの寿命は約千兆年からスタートして、最終的に四千兆年を超える。
もはや想像もつかないぐらいの長さじゃが、それでも終わる時がくるのじゃ。
法華経に「三界にある限り、あらゆるものは片っ端から滅びていく。この世で暮らしているというのはつまり、ガンガン炎上中の家に住んでいるようなもんだ」と書いてあるのは、つまりそういうわけじゃ。
世間でどれだけウハウハな人であったとしても、この世の北の果てに住む人に比べたら、まるでイケていないということになるし、先に挙げた様々な「天」になど、比べるのもバカバカしい。異常に長生きしたところで、せいぜいが百年、つまり忉利天における一日に過ぎないし、四千兆年に比べたら一瞬にすらなりゃしない。
そんなものを必死こいてお祈りしてどうしようというのじゃ! まったくもって、尼さんがビワのタネの消滅を祈るのと五十歩百歩じゃな。
どうせお祈りするなら、そんなしょうもないことではなく、究極のところをお祈りするべきなのじゃ。そうすれば、究極の悟りを得られないまでも、不測の災いにあうこともなく、普通に暮らしていくだけのものは、今の人生においてだけではなく、これから先々の人生においても自然に得られることじゃろう。
にもかかわらず、たとえ得たところであの世まで持っていけもしないようなものを一所懸命祈りたおして人生を棒に振った挙句に、生まれ変わる先のレベルをどんどん下げてしまう。なんとまぁ、あさましいことじゃ!
―――――つづく
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