ある日のことです。
無著(むじゃく)和尚が五台山を登っていると、中腹になんだか荒涼とした場所があるのを見つけました。
「うわー、なんだか薄気味悪いなぁ・・・」などと思ってふと見ると、何やらいわくありげなお寺が建っているのが目に入りました。
和尚がビビっていると、寺の中から何やら有難げな寺の主が出てきて招き入れられてしまいました。
寺主:「何処から来たの?」
無著:「・・・いや、ちょっと南の方から。」
寺主:「南の方はどんな感じ? いや、仏教とかいろいろ。」
無著:「うーん、正直シンドイっすね。マジメにやっているヤツはほとんどいませんよ。」
寺主:「ほう、どのぐらい?」
無著:「そうですねぇ、三百から五百人ぐらいでしょうか、多めに見積もっても。ちなみに、ここではどんな感じなのでしょう?」
寺主:「え? ・・・そうね、強いて言えば、ここでは凡人も聖人も一緒って感じかな。なに、わかりにくい? そうねぇ、例えば龍とヘビが一緒になってのたくっている感じって言ったらわかりやすいかな。」
無著:「ほう、どのぐらい?」
寺主:「ははは・・・ 前と後ろに六づつある、といえばわかるかな。それより、まぁ、お茶でも飲みなよ。」
無著:「・・・どうも、いただきます。」
出されたお茶を見ると、なんと茶碗がクリスタル製ではありませんか!
寺の主はクリスタル碗をこれ見よがしに持ち上げて言いました。
寺主:「ところで、南の方にはさ、こんなのってあるの?」
無著:「ねぇよ!(怒)」
寺主:「へぇ(嘲笑)、じゃ、どうやって茶を飲むのさ?」
無著和尚は大層ムカつきましたが、気の利いたリアクションが思いつかず、返答に窮してしまいました。気まずくなってしまったので、無言のまま立ち上がって帰ってしまおうとする無著和尚。
寺の主は童子を見送りに行かせました。
門のところまで来たところで、無著和尚は童子に話しかけました。
無著:「・・・あのさ、さっきの「前と後ろに六づつ」って、結局どのぐらいのことなんだ?」
童子はすかさず答えました。
童子:「おい、オッサン!」
無著:「な、なんやねん?」
童子:「それはどのぐらいだ!?」
無著:「はぁ!? なんじゃそりゃ、っていうか、何じゃこの寺は!」
童子が門の内側を指差したのにつられて、無著和尚が振り返った途端、門も寺も、童子すらも掻き消えて見えなくなりました。
無著和尚は辺りを見まわしてみましたが、そこにはただ何もない岩場が広がっているだけだったということです。で、その後、その場所は「金剛窟」と呼ばれるようになったとか。
―――――つづく