五台山の怪異 2/2話(出典:碧巌録第三十五則「文殊前三三」)

ちなみに五台山は「清涼山」とも呼ばれる名山なのですが、この怪談が有名になってしばらくしてから、あるお坊さんが風穴和尚に質問しました。

「ところで、「清涼山の主」っていったいどんなものなんでしょうね?」

風穴和尚は答えました。

「無著が山で出会ったという寺の主のことか? もしもあの話が本当であれば、無著が質問をするヒマなどあるわけがない。だって、あの「主」は今だかつて寺に定住したことなどないのだから。」

無著和尚の怪奇体験から百年ぐらいの後、福建省の地蔵精舎で説法をしていた羅漢和尚が坊さんのひとりに質問しました。

羅漢:「何処から来たの?」
坊主:「・・・いや、ちょっと南の方から。」

羅漢:「南の方はどんな感じ?」
坊主:「いや、それはもう、たくさんの人が熱心に議論を戦わせていますよ!」

羅漢:「ふん、自給自足で暮らしているワシの方がずっとイケてるわい!」

さて、この話、なんだかどこかで聞いたような問答ですが、羅漢和尚の答えは、さっきの話に比べてどうでしょうか? 同じでしょうか? それとも違うでしょうか?

「そりゃ、無著の相手をした寺主の答の方がイケてますよ。龍とかヘビとか、凡とか聖とかいろいろあるわけだし。」などと言う人がいるようですが、これはもう、まったくわかっちゃいないとしか思えませんね。

ところで、無著和尚がなぜ五台山をうろついていたのか知っていますか?

実は、無著和尚は文殊菩薩の熱烈なファンで、華厳経の中で文殊菩薩が「私は清涼山に住んでいる」と言ったのを真に受け、どうしても会ってみたくて、清涼山という別名のある五台山をひとりで探索中だったのです。

で、夜通し会話したというのに、結局最後まで相手が文殊菩薩であることに気づかなかったという次第。

雪竇(せっちょう)和尚はこの話をとりあげた後、こんなポエムを作りました。

山あり谷あり奇岩あり。

まことに絶景、五台山。

文殊と会話ができたって?

「どのぐらい?」とか、マジうけるんですけど。(笑)」

独眼龍と呼ばれた明招和尚も負けずにポエムを作りました。

この世のすべては巨大な寺院。

目に映る全ては文殊の化身。

言われてわからないようなヤツには、どれだけキョロキョロしたところで、「ああ、五台山は絶景だなぁ」程度の感想しか持てないだろうがね。

結局、無著和尚はその後、五台山に住みつきました。

そして、お粥を炊いている鍋の上にたちのぼる湯気がモワモワっと文殊菩薩の形になるたび、粥を混ぜるためのシャモジでバシバシと叩きのめしたとか。

・・・しかしまぁ、とっくに手遅れですよね。叩きのめすなら、最初に「南の方はどんな感じ?」と問われた時にやらないと。

さて、読者の皆さん、雪竇和尚はなぜ自作ポエムの中で笑ったのでしょうか?

それがわかれば、「前と後ろに六づつ」のナゾなんてすぐ解けますよ! (笑)

<五台山の怪異 完>

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