話を冒頭のエピソードに戻しましょう。
ここで「どこから来た?」と尋ねられた僧侶は、「山の麓から来た」と答えました。
実は、この答え方はちょっとしたクセもので、逆に相手を試すためにあえて質問の主旨がわからないフリをして相手をはぐらかす時と同じかたちになっているのです。
ハンパな禅僧ではとても応対できずにアタフタしてしまうところでしょう。
ところが流石は我らの丹霞和尚、すかさず「メシは喰ったか?」と続けました。
これによって、先の質問の答えが「あえて」とぼけているだけなのか、「なにもわかっていない」だけなのかがわかるのです。
案の定、僧侶は「さっき食べ終わりました」などとスカタンを言ってしまいます。
で、「コイツ、全くわかっていないな」ということで、丹霞和尚は「オマエにメシを喰わせたヤツに眼はついていたか?」と言ったのです。
この時僧侶は眼をパチクリさせて唖然としていたということですが、丹霞和尚が言外に「オマエみたいなヤツにメシを喰わせたところで、なんの役にも立ちやせんわ!」と罵倒していることにすら気がつかなかったというわけです。
私なら、丹霞和尚が「オマエにメシを喰わせたヤツに眼はついていたか?」と言うやいなや、「そういうアンタはどうなんですか!?」と言ってやるところですがね。(笑)
さて、長慶和尚と保福和尚はどちらも雪峰和尚の下で修行していた禅僧なのですが、二人はいつも先輩たちの前例を引き合いに出しては討論をしていました。
長慶和尚が「メシを喰わせてくれたのに、なぜ眼がないなどとかいうのか?」と尋ねたのは、つまり保福和尚がどこまでものごとを理解しているのか試したわけなのですが、ここで保福和尚は「喰わせる方も喰わせてもらう方も、どちらも見えているとは思えん」と答えました。
これは、話を単なる昔話にしてしまうことなく、今、この瞬間に活かそうとするもので、なかなかどうしてナイスな回答です。
で、長慶和尚がさらに「どちらも一所懸命やっているのだが、それでも見えていないというのか?」と尋ねたので、保福和尚は「オレには見えていないと言うのか?」と答えたわけです。
これはちょっと惜しいところです。私なら長慶和尚が「見えていないというのか?」などと言うやいなや、「このメクラめ!!」と言ってやるところです。w
―――――つづく
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