雪竇和尚は「その場で茶炉ごと蹴り倒す」などと威勢のよいことを言った後、こう付け加えましたっけ。
「王大傳の質問は、ゴオっとうなりをあげながらオノを振りおろすが如き全身全霊をかけたものだったのだが、なんというか、ちょっと受けそびれてしまったようだな。
独眼竜ともあだ名される明招和尚ともあろう者が、なんとも残念なことだ・・・
もし明招和尚が本気を出せば、雷鳴とともに川を遡って猛威をふるったことだろうに。」
因みにこの「うなりをあげながらオノを振りおろす」というのは、「荘子」所収の次のエピソードから引用されたものです。
昔々、郢(えい)という国に、壁を塗らせたら天下一の美しい仕上がりという大変腕のたつ左官がいた。
ある時彼が壁を塗り終わってから仕上がりを確認したところ、上の方に小さな窪みがあるのを発見した。
いまさら脚立をだしてくるのも面倒だと思ったのか、彼はその壁を塗るのに使った土をひとつかみすると、そのくぼみに向かって投げつけた。
投げつけられた壁土は、ビシャっと広がってその窪みを見事に埋め、完全に平らな表面に仕上がった。まさに絶妙の技である。
ところが、その壁土がちょっとだけはね返ってきて、ちょうどハエの羽みたいな感じで彼の鼻の頭にくっついた。
それを見ていた同僚の大工、「オレが取ってやるよ!」というやいなや巨大なオノを取り出し、彼の顔面めがけて振り下ろした。
オノはゴオっとうなりをあげながら鼻先を通過し、くっついていた土だけをスッパリと削り取った。
で、鼻の頭に傷ひとつつかず、彼ももまた顔色ひとつ変えなかったということだ。
(荘子 徐無鬼より)
このエピソードでは大工2名はどちらも凄腕ということになっていますが、今回は片方がもっとできるハズなのにちょっと残念な結果になってしまったので、雪竇和尚が黙っていられずに思わず威勢のいいことを言ってしまったというのが実際のところでしょう。
「川なんか遡らんでいいから、なにげない日常に真正面から取り組まんか!バカモノ!!」と弟子たちをよく叱った雲門和尚がこれを聞いたら、果たして何と仰ることでしょうかね。(笑)
<ティーセレモニー 完>
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