ありとあらゆる苦悩や葛藤を乗り越えて、「これで、いいのだ!」と心から思えたとき、鉄でできた木に花が咲くのだとか。
はて、これはいったい何の話なのでしょうか?
なんだか夢か幻のような話ですが、そんなことができる人が果たしてこの世にいるのでしょうか?
さあ、これはなかなかの難問です。仮に貴方が大秀才で、巷でブイブイいわせているのだとしても、迂闊に顔を突っ込めば、思いっきり鼻づらを引きまわされること間違いなしです。
陸亘(りくこう)さんは地方の役人でしたが、まだ無名だった頃の南泉和尚に心酔し、頻繁に入り浸っては話を聞き、また南泉和尚の素晴らしさを世間に吹聴する活動を続けていました。
ある時、陸亘さんがふと「肇(じょう)法師は「天地の構成成分はオレのそれと変わらない。つまり、世界とはオレのことなのだ!」と言ったとのことですが、なんともまあ、不思議な話ですよねぇ。」と南泉和尚に話を振ったところ、和尚は庭先の花を指さして言いました。
「近頃の連中ときたら、これが夢だと思っているのだから困ったもんだね。」
肇法師は、西暦300年代の後半に、あの大翻訳家である「羅什三蔵法師」ことクマラジーヴァのもとで働いていた人物です。
クマラジーヴァは、インドから持ち込んだ大量のテキストをことごとく中国語に翻訳するという大国家事業遂行のため、3000人ともいわれる作業部隊を抱えていましたが、その部隊の頂点に、「四哲」と呼ばれる大秀才4人組がいました。
それが道生、道融、道叡、そして僧肇こと肇法師の4人だったのです。
クマラジーヴァが梵語から中国語に翻訳した「般若心経」を、原意を損なわない形で漢字文化圏に幅広く普及させた功績は、実はこの肇法師に負うところが極めて大きいといわれています。
そんな肇法師ですが、幼い頃からの「老荘」大好きっ子でありまして、もうヒマさえあれば「老子」「荘子」を読みまくり、その雄大な世界観に浸りきってはウットリとしていました。
ところがある時のことです。
―――――つづく
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