いわく、「平地上は死人だらけ、イバラの森をくぐり抜けてこそ生者!」。
というわけで、達人たちはわざわざ「イバラの森」を用意して人を試そうとするのです。
いやしくも「人の役に立つ人間になりたい」というのであれば、常に言葉の裏に注意して、その真意をつかむよう努力し続けなければなりません。
言葉を文字通り受け取って「いや、クチをふさがれたらモノのいいようがないよね。」としか理解できないのであれば、「死人」と呼ばれても仕方ないでしょう。
ちょっとは気の利いた人物であれば、常識や教条にとらわれることなく臨機応変な対応ができるハズ。
さて、冒頭のエピソードで潙山和尚は「師匠ならどうされますか?」と返しましたが、読者の皆さんは彼がこの言葉に込めた企みがどのようなものであるのかおわかりでしょうか?
これに対して百丈和尚は「ワシはもちろん言えるけれども、ワシが言ってしまったのでは修行にならない」と返しました。
今どきの人たちはこれを聞いて「なんだしょうもない! これって想定外のボケを受けきれずに負け惜しみ言ってるだけじゃないか!!」と思うことでしょうが、実はこれこそ彼が大師匠である所以なのです。
このエピソードに関し、私の師匠の雪竇和尚は次のようなポエムを詠みました。
「逆にお尋ねしますが、師匠ならどうされますか?」
なんと、まるでトラに角が生えて草むらから飛び出してきたかのような鮮やかなやりくち!伝説の神仙郷「十洲」の春も終わって花はしぼみ、サンゴ礁には燦々と日が照りつけておりますなぁ。
三人の弟子たちの回答は様々でしたが、雪竇和尚は特に潙山和尚のアッサリした切り返しがお気に入りのようですね。
「角の生えたトラ」なんて危なくってとても近寄りがたいですが、実はこの比喩は以下の僧と羅山和尚の問答が元ネタです。
僧:「「同時に生まれながら、死ぬ時はバラバラ」、こりゃいったいどういうことでしょうか?」
羅:「角のない牛のようなもんだね!」
僧:「「同時に生まれ、死ぬ時も一緒」、こりゃいったいどういうことでしょうか?」
羅:「角の生えたトラのようなもんだね!!」
―――――つづく
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