「代々受け継がれてきた禅の真髄は、いわばハンコのようなものだ。そしてそのハンコは鉄でできた牛のごとき凄まじいパワーを秘めている!」、というのは第三十八則に出てきた風穴和尚のセリフですが、その「凄まじいパワー」の前では百戦錬磨の修行僧ですら燃え盛る炉に舞い落ちたひとひらの雪のようなものです。
読者の皆さんが「百戦錬磨」かどうかはさておいて、一切の「お約束ごと」から離れた修行とはいかなるものか、皆さんと一緒に見ていきましょう。
ある時、南泉和尚、帰宗(きす)和尚、麻谷(まよく)和尚の三人は、当時都で大人気だった忠国師の話で盛り上がり、是非会いに行ってみようという話になりました。
都に向かう途中、南泉和尚はふと立ち止まって棒で地面に円を描き、「何か気の利いたことを言ってみてくれないか? うまいこと言えるようであれば忠国師に会いに行こう」と言いました。
それを聞いた帰宗和尚は、描かれた円の中にどっかりと座り込みました。
それを見た麻谷和尚は、女性のように立ったままでお辞儀をしました。
そして、それを見ていた南泉和尚は言いました。
「うむ、そういうことであれば、忠国師に会いに行くのはやめにしよう。」
で、帰宗和尚は、「なんやねん、それ!!」とツッコんだとか。
当時、中国における仏教六代目伝承者である慧能和尚の弟子三人、馬祖和尚は江西、石頭和尚は湖湘、忠国師は長安で、それぞれ大活躍していました。
腕に覚えのある修行僧たちはこぞって彼らに挑戦しましたし、また、そうでなければ恥とされていたのです。
で、南泉和尚ら三人も負けじと忠国師に挑戦しようという話になったわけなのですが、道半ばにしてなんだかグダグダなことになってしまったという次第。
帰宗和尚と麻谷和尚がそれぞれちゃんと回答を示したのに、「会いに行くのはやめよう」などと・・・
これはまた、いったいどういうわけなのでしょうか?
私なら南泉和尚が「やめ」などと言い出した時点ですかさずビンタして、彼がどのような反応をするか様子を見るところですが。(笑)
―――――つづく
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