石鞏(せっきょう)和尚のヤリクチは、薬山和尚と同じです。
三平和尚はそのヤリクチを即座に見抜いて自分から当たりに行ったわけですね。
薬山和尚に質問をした僧も多少は腕に覚えのある人物だったようで、自分で「どうやったら、「鹿の王」を射ることができるか?」と質問しておきながら「私がその「鹿の王」ですよ!」とばかりに倒れてみせたのですが、そこは薬山和尚の方が何枚も上手で、「この死体を片付けろ!」と言われてしまいました。
ここでこの僧が「逃げ」を打ったのは流れから見て妥当ではありますが、薬山和尚にとってはなんとも物足りなかったようで「泥団子をいじりまわして何になるというのだ・・・」と嘆息されてしまった次第です。
とはいっても、もしここで薬山和尚の最後のセリフがなかったら、後世の人はあるいは薬山和尚の負けと判断しかねないところですので、結構ギリギリのバトルだったのではないかと私は思います。
薬山和尚が「矢を見ろ!!」と言い、僧はすかさず倒れて見せた。
さて、この僧は「わかっている」のでしょうか、それとも「わかっていない」のでしょうか?
「わかっている」というのであれば、薬山和尚はなぜ「泥団子をいじりまわして何になるというのだ・・・」などと言ったのでしょうか?
似たような話に、以下のような徳山和尚と僧の問答があります。
僧:「学生が伝説の名剣である鏌鋣(ばくや)の剣をふりかざして師匠の首を取ろうとしています! さて、貴方はどうしますか?」
徳:(僧の前に首をさし出して、)「バッサリ!!」
僧:「・・・師匠、首が落ちましたよ!」
徳:(うなだれたまま部屋に帰ってしまう)
また、巌頭和尚と僧の問答にも似たようなものがあります。
巌:「どこから来た?」
僧:「西の方から来ました!」
巌:「黄巣の乱が治まった後、オマエは剣を獲得したかい?」
僧:「はい、獲得できたと思います!」
巌:(僧の前に首をさし出して、)「バッサリ!!」
僧:「・・・師匠、首が落ちましたよ!」
巌:(大爆笑)
賢明な読者の皆さんのことですから当然もうおわかりのことと思いますが、これらの奇妙なやりとりは、全て相手を試すためにやっているのであり、いわばトラを捕えるための罠のようなものです。
ただ、薬山和尚はそういったやりとりには付き合わず、ビシッと塩対応したというわけです。
―――――つづく
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