冒頭のエピソードに対して雪竇(せっちょう)和尚は「三歩は逃げられるだろうが、五歩逃げるまでに死ぬこと間違いなし!」とコメントしました。
このコメントは、薬山和尚に質問した僧が、言われた通りに「矢」をちゃんと見て、その場にバッタリと倒れて死んだふりをしたのにも関わらず、「この死体を片付けろ!!」と言われてしまい慌てて逃げだしたことを指しているわけなのですが、もし仮に、この僧が五歩以上逃げおおせることができたとしたならば、その時はもうこの僧は天下無敵といえるでしょう。
このように達人同士のバトルというのはわずかなスキもなく勝機が入れ代わり、一瞬の油断も許されない激しいものなのです。
この僧は残念ながら勝機をつかむまでバトルを続けることができませんでした。
で、雪竇和尚に次のようにポエムに詠まれてしまうわけです。
鹿の王! 鹿の王!
キミキミ、よくよく見て取りなさい!
矢をつがえたら逃げ出すこと三歩。
でももし五歩以上逃げられたなら、群れを率いて戻って来て逆に虎を追い掛け回すことになるだろう。
狙っているのは狩人だ。
矢を見ろッッ!!!
とはいえ、薬山和尚はまさしく「狩人」のごとく、質問をした僧はまさしく「鹿の王」のごとく振る舞ったと私は思いますし、雪竇和尚も内心ではそう思っていることでしょう。
ここで雪竇和尚は「鹿の王!」と呼び掛けていますが、これは実は、この文章を読んでいるアナタを含む、全ての修行者に向けられたものです。
少なくとも今回の話をここまで読み進むぐらいの人物であれば、充分に「鹿の王」を名乗るだけの鋭い「眼」を持ち、充分に「鹿の王」を名乗るだけの力強い「角」があり、戦略立案・実行能力もお持ちのハズ。
そんなアナタの前では、翼や角を持ったトラですらも必死に身を隠そうと逃げ惑うこと間違いなしですね。w
因みに上記のポエムを雪竇和尚が詠んだ時、「矢を見ろッッ!!!」と一喝された我ら弟子一同、全員しばらくのあいだ金縛りにあったように身体が動かず、逃げ出すどころではなかったことを白状して、この話を終わらせていただきたいと思います。
<ディアハンター 完>
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