ある僧が投子和尚に尋ねました。
僧:「涅槃経には「この世における全ての声は仏のメッセージである」と書かれていますが、こりゃまた本当のことなのでしょうか?」
投:「本当だよ。」
僧:「・・・和尚、テキトーなこと言わないでくださいよ!」
投子和尚に棒で打たれた僧は、さらに言いました。
僧:「涅槃経には「どれほど乱暴な言葉も、どんなに優しい言葉も、みな全て究極の真実の表現である」とも書かれていますが、こりゃまた本当のことなのでしょうか?」
投:「本当だよ。」
僧:「・・・和尚のことを「ロバ」と呼んでもよろしいでしょうか?」
それを聞いた投子和尚は、僧をまた棒で打ったとか。
投子和尚は抜群の弁才の持ち主でしたが、とてもマジメな性格で、質問を受けた場合、その質問に対してではなく、質問者がその質問を通じて知りたがっている本当の悩みに対して回答することが常でした。
実は、この僧は「感覚的存在がそのまま仏法である」という「声色仏法」の見解を額に貼り付けて、逢う人逢う人に片っ端からこの質問を投げかけていたのです。
で、投子和尚がマジメだと聞いてやってきて、自分からワナを仕掛けたつもりが、投子和尚の手管にかかって思わず「テキトーなこと言うな!」と言わされてしまいました。
普通の和尚であれば、このように言下に否定されたら静かになってしまうところですが、そこは流石の投子和尚、すかさず棒で打ちました。
これは例えば噛みついてきたイヌに対して噛みついて対応するようなもので、ふざけた相手であっても真正面から相手をするマジメな投子和尚ならではの対応です。
しかし、この僧も惜しいところでした。
もし、投子和尚が棒に手を伸ばした瞬間に、すかさず和尚が座っている座布団をつかんでひっくり返すことができたなら、たとえ投子和尚であっても打つ手なく、三千里は後ずさりさせることができたハズです。
―――――つづく
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