ちがう、そうじゃない! 1/4話(出典:碧巌録第九十八則「天平和尚両錯」)

国中の修行僧が大勢集まって、必死に議論したところで結局は混乱を増すばかり。
「伝説の宝刀」でバッサリやられたら、なんの役にも立たないことが丸わかり。

さて、この「伝説の宝刀」とは、いったい何のことでしょう?

今からその切れ味をお見せしますので、せいぜいマバタキを我慢して大きく目を開いていてくださいませ。

天平和尚は若い頃にあちこちの著名な師匠たちのところを行脚してまわっていたのですが、いつも「近頃の師匠どもときたら、仏法がまるでわかっていないだけでなく、まともに会話すらできないようなのばっかりだ!」とグチを言っていました。

西院和尚のところに立ち寄った時のことですが、西院和尚は遠くの方に天平和尚が入ってくるのを見かけて、早速声をかけました。

西:「オイ、そこのオマエ!」

天平和尚が呼ばれたと思って顔をあげた瞬間、西院和尚は言いました。

西:「ちがう、そうじゃない!」

わけもわからず天平和尚が西院和尚に向かって二、三歩行ったところで、また西院和尚は言いました。

西:「ちがう、そうじゃない!」

西院和尚は近くまでやってきた天平和尚に言いました。

西:「ワシは今、二回「ちがう、そうじゃない!」と言ったが、ちがうのはワシかな?それともオマエの方かな?」
天:「・・・それはきっと私の方が間違っているのではないかと。」
西:「ちがう、そうじゃない!」

ここで天平和尚はぐっと言葉に詰まってしまいました。

その様子を見て、西院和尚は言いました。

西:「まぁまぁ、オマエさん、ワシのところでひと夏過ごしなされ。ワシと一緒に今の「ちがう」について考えてみようじゃないか。」

それを聞いた天平和尚は、返事もせず、脇目もふらずにその場を立ち去ってしまいました。

後年、天平和尚は弟子たちに向かってこう話したそうです。

天:「ワシは若い頃、西院和尚のところをフラッと尋ねていったことがある。
和尚はワシを見かけるなりイキナリ二度、「ちがう、そうじゃない!」と言われ、さらには「ワシのところでひと夏「ちがう」について考えてみよう」と言われた。
当時ワシは「何が「ちがう」じゃ、ボケ!間違っているのはオマエの方じゃ!!」と思って相手にしなかったのだが、その後、いくら探し回ってもなかなか理想の名師に出会えないのは何故なのか深く考えてみた時、間違っていたのはワシの方であったことを思い知ったのだ。」

―――――つづく

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