カラオケのコール&レスポンス

立教セカンドステージ大学というところで、数年前から講義をしている。

「歌が照らす人と社会」というちょっと変わった科目だ。新しくカリキュラムを組む時に、僕が提案した。以来、戦後の日本の歌を材料にして、受講生たちと週に一度わいわいやっている。教室で昭和歌謡をバンバン流すものだから、CDや音楽映像を視聴しているうちに、その歌に合わせて口ずさむ学生のみなさんも出てくる。

歌は、聴いているだけでは終わらない。記憶の箱が開いた学生のみなさんは、その箱の中をもう少し楽しみたくなるもので、まっすぐ帰宅出来なくなる。

「はい、今日の授業はここまでです。ご清聴、どうもありがとうございました。」
「先生、行きますか?」
「そうですね、じゃ、行きましょう!」

昨日も、まっすぐ帰れないオトナたち12人とカラオケへ。ビールとつまみを頼み、乾杯したあと、それぞれ好きな歌を選んでは次々と唄う。
あっと言う間の2時間なのだが、様子を見ていていつも感心することがある。
カラオケの選曲が、緩い感じのコール&レスポンスになっているのだ。

「有楽町で逢いましょう」(フランク永井・松尾和子)のあと、
「池袋の夜」(青江三奈)と山の手線を内回りで北へ移動し、
「For You」(高橋真梨子)で女性の情熱に気圧されたあと、
「I Love You」で尾崎豊のストイックで切ない愛のことばにジーンとする。

気の知れた者どうしのカラオケでは、「○○しばり」といって、何かのテーマを決め、それに合った選曲をするという遊びもある。
しかし、僕のクラスの学生のみなさんは、そういうことをしなくても、歌一曲一曲でコールとレスポンスをして楽しんでいるように見える。

東アジア、東南アジアのいくつかの地域では、若い男女が集まってお互いに求愛の歌謡を掛け合いで唄う習俗が残っている。南西諸島、奄美地方でもこの「掛け歌」の文化があり、奄美民謡の唄者(ウタシャ)たちは見事な歌遊びを披露している。

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昨日のカラオケは、一曲全体が歌い手のメッセージになっていて、それを受けて次の人が“返す”という場になっていた。いつもそうだとは限らないのだが、歌を聴いているとその人の思いやこれまでの歩みが透けて見えるような気がする。

「その歌には、どんな思い出がありますか」

カラオケのあと、心に響いた歌について訊いてみてはいかが。話しが弾みますよ。

コール&レスポンス!