赤ちゃんのうんちについて

黒沢秀樹さんの連載、番外編が3回続きましたが、今回は育児テーマに戻ります(編集部)


今回は紙オムツからの流れで、育児に避けては通れない赤ちゃんの「うんち」について書いてみようと思う。
一般的に犬や猫などの動物を飼っている場合などを除けば、誰かのうんちをまじまじと見つめて向かい合う機会は育児のほかにあまりないと思うが、その経験から得るものは少なくない。たぶん今まで書いた文章の中で一番「うんち」という言葉を多く使うことになると思うが、汚いとか臭いというネガティブなイメージを少しでも払拭出来たらと思う。

子供の食事は母乳やミルクから離乳食、幼児食へと移行してゆく。離乳食にもそれぞれ適した時期があり、初期、中期、後期と成長の流れに沿って調理の仕方や食材の種類を変化させ、同時にアレルギー反応などが出ないかを確認していくのだが、その食事の内容によって当然うんちの状態も変化していくことになる。赤ちゃんのうんちは何か体調に変化があった場合に最もわかりやすいバロメーターのひとつだろう。

まだ母乳やミルクしか飲めない乳児のうんちはその時期だけの特別なもので、いわゆるうんちの匂いもしない。ヨーグルトや炊きたてのごはんの香りと言われることもよくあるが、その固さや色によっても健康状態の変化に気づくことができる。
黄色、ベージュ、緑がかったもの、茶色などがほぼ正常な状態のバロメーターになるが、赤や黒といった出血の可能性のあるもの、ウィルス感染や内臓疾患の可能性がある白には注意が必要で、病院で診察を受けるべき、というのが現在の一般的な定説だ。

とはいえ急に緑色のうんちが出たり、何日もうんちが出ないことがあると心配になるのは当然で、自分も不安になって病院に通うことが度々あった。
育児中や育児経験のある方ならわかってもらえると思うが、本やウェブサイトなどである程度の情報を得ていてもやはり心配になり、とりあえずたいしたことはないと思うけれど病院を受診するという選択をするのは自分だけではないはずだ。
忙しいお医者さんには申し訳ないが、これは子供というよりも養育者の知識と経験値、それによって生まれる安心感を得るために必要な作業であると自分は思っている。世の中には頭では理解しているつもりでも実際に経験しないとわからないことが山ほどあり、育児はその集大成とも言えるのだ。

例えば便秘で3日以上排便が見られなかった時に、おなかやおしりを刺激するといいとお医者さんに言われて実践したことがある。足を持って前後左右に動かしたり、おなかをマッサージするというものから、ダイナミックなものではおしりの穴に綿棒を突っ込んでぐるぐる回すというものまであり、これはなかなか勇気がいった。

小さな赤ちゃんのさらに小さなおしりの穴に棒を突っ込んでかき回すというのは、かなりの不安と緊張を伴う作業である。正直、そんなことをして良いのだろうかという気持ちもあった。しかし、なにしろ出ないことには仕方がない。細い綿棒に勧められたオリーブオイルを染み込ませ、おしりにもオイルを塗る。細心の注意を払い、おしりにそっと綿棒を差し込むも、どのくらいの深さまで入れて、どのくらいぐるぐるしたらよいのかさっぱり加減がわからない。
なにしろ赤ちゃんは言葉が話せないので、「そうそう、いい感じ。その調子で続けて」とか「もっとやさしく、もう少し上の方」などとは言ってくれない。

あんまり奥まで入れると良くない気もするし、このタイミングで子供が足をバタバタして暴れ出したらどうするべきかもわからない。こんなことをずっと続けていたらこのまま綿棒ぐるぐるをしないとうんちが出ない子になってしまうのではないか、オリーブなんか食べさせていないのにオリーブオイルをお尻から吸収させてアレルギー反応が出ないか、ひょっとしておしりの穴がどんどん大きくなってしまうのではないか、などというネガティブな妄想に押し潰されそうになりながらも、とにかく今ここにある危機、パンパンになっているおなかを普段の状態に戻す任務を遂行しなくてはならない。綿棒をぐるぐるするしかないのだ。

努力も虚しく全く出てこない時もあるが、きれいなうんちがにゅるっと出てきた時には、安堵感で胸を撫で下ろす気持ちになる。ただうんちが出ただけなのにこんな気持ちになれる人間という生き物は、状況によって物事の捉え方を都合よく変えられる天賦の才能を持っている。育児はその才能を開花させるのにはもってこいなのだ。そういう意味では綿棒で赤ちゃんのお尻をぐるぐるするという経験が自分にもたらしたものはかなり大きい。

うんちが出ただけで幸せな気持ちになれる。これは子育てをする人に与えられた神様からの贈り物だ。と、おしりふきをそっと握りしめながら次の曲のテーマを考えたりする。タイトルは「はじめてのオリーブ」かなあ(やめとけ)。

(by 黒沢秀樹)

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