クルクル回る:黒沢秀樹の育児クリエイティブノート

育児をしていると時折、想像もしなかったことが起きる。

例えば、子供が突然回転しはじめたりするのだ。

なんと説明して良いのかわからないが、とにかく回転するのである。目を閉じてうっすら不敵な笑顔を浮かべながら、クルクル回り出す。
とりあえず笑顔なのでまあいいのかと思いつつも、全く意味がわからない。

「どうした?なんで回ってるの?おーい!」と聞いてもひたすら回り続ける。すん、と急に止まったかと思うと、そのままフラフラになって床にステンと転ぶ。
「キャハハー!」と笑いながら起き上がろうとしてまた転ぶ。目が回っているのだから当然である。
そしてテーブルや柱の角などにぶつかったら危ないなあ、と思った次の瞬間、柱の角に頭をぶつけて絶叫している。

いやはや、こんなことをいったいどこで覚えてきたのだろうかと思いつつ、遠い日の記憶が甦ってきた。

「あれ?これ自分もやってたかも」

以前にも書いたが、ある知人から言われたことを思い出した。
育児は、「忘れてしまった自分の子供時代を、もう一度一緒に思い出せる機会だ」と。

そういえば、確かに自分もクルクル回っていた。なぜ回っていたのかは謎だが、自分は止まっているのに世界がぐるぐる回り続けているという感覚がそれまで経験したことのない不思議なもので、それがとても楽しかったような気がする。
速く、長く回るほどその効果が大きく出るので、もはや溶けてバターになりそうな勢いでクルクル回り続け、最終的にどこかにぶつかったり気分が悪くなって吐くなど、周囲にえらい迷惑をかけていたような気がする。

なるほど、これは遊んでいるのだということに気がついたのは、子供がその不可解な行動を2、3回繰り返した後、自分も同じことをしていたことを思い出した時である。当たり前だが、幼少期に自分もクルクル回っていたことをそれまですっかり忘れていたのである。
子供はなぜ回転するのか。そういえば友人知人の子育ての先輩ともそんな話をしたことはない。気になってちょっとだけ調べてみることにした。

まず、回転する子供はたくさんいるし、珍しいことではないらしい。
子供には本能的に成長したいという「発達欲求」というものがあり、回転することは三半規管を刺激し、そのことが身体的なバランスや様々な感覚を発達させるのにとても大きな役割を果たしている。しかし同時にその行動は自閉的傾向や発達障害などの重要なサインのひとつでもあるらしい。
そういうことを知ると、どうしても必要以上に気になってしまうのが養育者の習性である。いくつかのweb上にある診断基準を見て驚いた。
これ、子供の頃の自分のことじゃないのか?と思うことがたくさんあった。

当時はきっとそんな診断名はなかったし、あったとしても一般的な認知は限りなく低かった。発達障害などという言葉を知ったのはずいぶん大人になってからの話である。
うーむ。自分の子供が意味もなく何度もクルクル回り、キャハハと笑いながら柱に頭をぶつけて号泣しているということは、発達障害の可能性を完全には否定できないということになる。そして父親である自分の幼少期の記憶をそのガイドラインに当てはめると、かなり多くの部分が合致してくる。

情報というのは諸刃の剣のようなものだ。解釈の仕方によっては、ただ子供がクルクル回って遊ぶだけで、根拠のない不安な気持ちが遠くからゆっくり押し寄せてきたりすることになる。紙オムツを洗濯機で爆発させたくらいで誰も知らないどこか遠い国に行きたくなってしまう自分にとって、それはあまり良い状態とは言えないだろう。
自分は子供時代に自閉症だったのかもしれないし、発達障害を持っていた可能性も否定は出来ない。だとしたら、それは自分の力だけではどうにもならなかったことである。どうにもならないことを考えていても仕方がない。

そこで必要なのは、自分を含めた養育者が自分自身をどう捉えるか、ということだと思う。
以前読者からのメッセージの中で「完璧な親よりも、機嫌のいい親」という言葉を教えてもらった。自分は完璧な人間にはなれないけれど、考え方次第である程度機嫌のいい人間になることは出来るはずだ。

自分はミュージシャンなので、大人になった今でも場合によってはステージ上でギターを持ってクルクル回ったりする可能性もあるわけだが(しないけど)、やっていること自体はほとんど変わらないような気もする。それは一般的な視点からみればかなりおかしな状態だろう。
でも、そのことで誰かを楽しませたりすることが出来るかもしれない。そしてクルクル回って遊んでいる子供を見るのは、なんだか楽しい。

この際、もう一度子供と一緒にクルクル回ってみるのも楽しいんじゃないだろうかと思う。そしてライブが再開出来る日が来たら、みんなと一緒にクルクルしてみるのもいいかもしれない。完璧な演奏は出来ないだろうが、機嫌は多少良くなるかもしれない(←やめとけ)。

(by 黒沢秀樹)


※編集部より:ご紹介できるのは一部ですが、全部のお便りを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム