terrible horrible wonderful

どうやら自分の息子は「第一次反抗期」の真っ只中に突入したらしいが、この時期は他にも「イヤイヤ期」「魔の2歳児」、さらには「悪魔の3歳児」などと呼ばれている。調べてみるとこれは欧米でもある程度共通らしく、「terrible twos」「horrible threes」などと呼ぶそうだ。
「horrible」って、ホラー映画のホラーと同じ意味である。いくらなんでもこんな言い方はどうかと思うので、これについても何かもう少し養育者が希望の持てる呼び方に変えることが出来ないか思案中である。
その後「天使の4歳」「wonderful fours」という時期が到来するという説もあるが、果たしてどのくらいの信憑性があるのかは謎である。悪魔が突然天使に変身したら、それこそ何か不穏なことが起きるのではないかと逆に心配になってしまうのは自分だけだろうか。
ちなみに自分はホラー映画が好きではない。わざわざ進んで怖いものを見たくはないし、現実の方が余程 horrible だと思っているからだ。

さて、この「第一次反抗期」を乗り切るために出来るだけ客観的に子どもを観察している最中だが、ここ最近の彼の行動について報告しようと思う。以下、具体例である。

:ベビーカーやチャイルドシートに乗せようとすると、釣り上げられたばかりの鮮魚のようにピチピチ跳ねてベルトをすり抜ける。

:お気に入りのアニメを見ている最中にテレビを消すと絶叫してリモコンを振り回し、挙句あらゆるボタンを押しまくるのでなんだか知らない番組が録画されていたりする。

:分別のため3つに分かれているゴミ箱をひとつづつ持ち上げて移動し(たまに中身を吟味する)、また組み立てる。

:夜遅くなっても遊んでいてなかなかベッドに入ろうとせず、折衷案としてミニカーの持ち込みを提案すると収納していた引き出しごと全て持ち出してくる。

:蛇口をひねって水を出し、手で塞いで自分と周辺を水浸しにする。

:掃除の最中に掃除機のコードを引っ張り、不敵な笑顔で舐める。

:スイッチに手が届くようになり、寝室の照明を自分で演出しはじめる。

:気に入らないごはんのおかずがあると、断固拒否する。好きなものだけを入念に選り分けて先に食べる。(主に煮物のちくわやさつま揚げなどの練り物)

:何度促しても頑なに拒否していたかと思うと、バスルームに突然走っていってシャワーを要求する。

などなど、枚挙にいとまがない。
客観的に見れば、確かに terrible である。危険が伴うような場合は注意をするがほぼスルーされるわけで、毎日このような状態が続くとしたら、もう全てを捨てて誰も知らない遠い国に行ってしまいたい衝動に駆られる養育者は自分だけではないだろう。

しかし、客観的に見て感心することも多々ある。自分の幼少期には録画やオンデマンドのサービスなどは夢のような話であり、テレビはその放映時間を逃すと2度と見られない大切なものだったが、現在ではテレビだけでなくスマートフォン、タブレットなどの複数のデバイスで好きなコンテンツをほぼいつでも見ることが可能だ。善し悪しはあると思うが、息子はどうやらそのサムネイルを見ただけでそれがどのアニメのどのエピソードのストーリーなのかをかなり正確に把握しているらしい。
アンパンマンや機関車トーマスの中にもお気に入りのお話があり、それを指さして「ああったー!」と言うも、再生して意に沿わないと「バイバイー!」と絶叫する(普通に言えばいいのに)。
子どもというのはもう少し大雑把に物事を把握しているのかと思いきや、どうやらそうではないらしい。そんな彼の気持ちになって考えてみるとき、やはり幼少期の自分を思い出すことになった。

例えば、自分は子どもの頃から自動車が好きだった。好きだったというかもはや取り憑かれていたと言っても良いほどで、毎日家の門の前に座って通り過ぎて行くクルマを眺め、その「表情」の顔真似のようなことをしていた。
はたから見たら門に座って変な顔をしているかなりおかしな状態の子どもだったと思うが、確かにクルマにはそれぞれ表情がある、と今でも思っている。いかつい顔、間抜けな顔、優しい顔、眠そうな顔。今は「cars」に代表されるような車を擬人化したアニメがあるのでわかりやすいと思うが、自分はそういうアニメを見る前にすでに車を擬人化していたことになる。

そのうちにエンジン音だけである程度の車種が特定できるようになった。「バックギアに入れたようなうねった音は日産のFF」「ぼろんという低音に特徴のあるトヨタの6気筒」「ギャラギャラいうホンダの軽」「バタバタしたスバルのフラット4」という感じである。
クルマに詳しい人にはわかると思うが、車種はいろいろあれど、大まかにはその会社の主力となるエンジンとシャーシの基本構造は同じで、そこに乗せているボディーの形状が違うということが多かったのだ。そして最近のハイブリッドやEVのような静粛性に優れた車はまだなく、それぞれが個性的で盛大なサウンドを奏でていた。最近のEVにはエンジン音がしないものもあるので、これは少々さみしい。

つまり、自分の幼少期にも好きなものへのこだわりや特筆すべき集中力や記憶力があったということなのである。その後は並行して音楽や本の世界にどっぷりのめり込み、その結果それを仕事にするまでになってしまった。

子どもの様子を見てあらためて自分の幼少期を振り返ると、この「第一次反抗期」は子どもそれぞれの好き嫌いや個性が表出する大切な時期であるとも考えられるだろう。
彼が一体どんなことに興味を持ち、何に意欲を示すのか、今しばらくこの国にとどまって観察してみたいと思う。

(by 黒沢秀樹)

※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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