鼻吸い革命

子どもが鼻をたらしている。一年ほど前はずっと鼻水にまみれていたのであまり気にもしなかったが、急に寒くなったからかまた鼻をたらしているので、久しぶりに鼻水を吸ってみた。
育児経験のない方にとって「鼻水を吸う」とは何事かと思うだろうが、今回は「鼻吸い」について書こうと思う。

思えば自分が育った昭和の真っ只中においては、子どもというのは鼻水とほとんどセットであり、子どもはだいたい鼻水をたらしていた。その様子は漫画などでも多くみられた様に思うし、ちょっとしたケガなどはほとんど赤チン(死語)と絆創膏ですませていたはずである。

時代は移り変わり、今や子どもの鼻水に対する処置法も大きく変わった。
小さな子どもはまだ自分で鼻水を「チーン」と外に出すことが出来ない。出来ないから鼻水がたれているわけだが、これを手で拭っていろんなところに塗り広げられると非常に困るのである。あらゆるものが鼻水にまみれている状況は子どもにとってもあまり気持ちが良いものではないだろう。
そこで登場するのが「鼻吸い器」である。そんなものが存在することを子どもが生まれるまで全く知らなかった自分にとって、これは衝撃だった。
自分が小さな頃はもちろんそんなものはなかったし、とにかくひたすらちり紙(ティッシュもあったけど)で拭かれて鼻がガサガサになっていたはずである。

この「鼻吸い器」だが、どうにも子供の鼻水が止まらない時にあると便利だという話を聞いて、とりあえずアナログな手動(というか人力?)のものを購入して使ってみた。
これは2本のチューブの先に子供の鼻の形にフィットするようなアタッチメントと、途中に分岐して鼻水が溜まる部分が付いているだけのもので、使い方は実にシンプルだ。ひたすら子どもの鼻に器具を当てて「吸う」のである。
考えてみると子供の鼻水を直接吸引することになるわけで、いくら鼻水が溜まる部分があるとはいえ、はじめはかなり躊躇した。そしてもちろん、子どもは鼻を吸われるのが大嫌いである。
あらゆる手段を使って鼻吸いを拒否しようとする手足を押さえ、頭を固定しながらピンポイントで鼻水を吸い込むのはなかなか困難な作業で、絶叫する子どもと鼻水に悪戦苦闘しているとそのうち自分がいったい何をしているのかわからなくなってくる。
こんなことをして意味があるのか、子どもも嫌がっているし鼻水なんて放っておいてもいいんじゃないか、そもそも全然吸えてないし吸ってもまたどうせ出てくるだろう、などと考え始めると、どこか誰も知らない遠い国に旅に出たくなってしまうのも仕方がない。そもそも自分が鼻水を吸引することになるなんて想像もしていなかったのだ。

そこで登場するのが「電動鼻水吸引器」である。噂には聞いていたが、子どもの鼻水を吸うために電気を使うなんて、自分には考えも及ばなかった。値段もかなりのものである。「おいおい、さすがにそれはやりすぎだろう」くらいの気持ちだったし、購入する気もなかった。
しかし、ある日風邪をひいた子どもを病院に連れて行った時のことである。医師と看護師さんに導かれ、「吸引していきましょう」と子どもが鼻水を吸われることになったのである。
小児科に設置されているハイスペックな鼻水吸引器は自らの息を使って吸い込むものに比べて格段に効率が良く、あっという間に子どもの鼻水が吸い込まれていった。これはもう「鼻吸い革命」である。

そんなわけでしばらく後、ついに我が家にも革命を起こすべく「電動鼻水吸引器」がやってきた。包みを開けたときははじめて家に電子レンジやビデオレコーダーがやってきたに等しい(いちいち古くてすみません)気持ちになったが、これはこれで手入れが面倒だったりするし、結局子どもが絶叫することに変わりはない。しかし、この機器を使うことによって鼻吸いが少しだけ特別な意味のあることの様に思えてくるから不思議である。

ちり紙からティッシュへ、人力から電力へ。これからも鼻吸いの進化は続いていくのだろう。しかし、いつの時代も変わらないことがある。子どもは鼻水をたらすし、やはり鼻吸いが嫌いなのである。

(by 黒沢秀樹)

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