子どもを、待ってみる

もちろん、今日も子どもは泣いている。2歳半ともなると体力もついてきて声も大きくなり、様々な行動のバリエーション(投げる、噛みつく、叩く、壊す、など)が増えてくるので、養育者の方もこれまで以上に対処に気を遣うことになる。
おなかがすいた、眠い、体調が悪い、など子どもが絶叫する主な理由はいくつかあるが、考えてみるといまだにその多くは謎に包まれている。言葉を使ったコミュニケーションがまだうまく出来ない子どもが何を考えているのかは正直なところわからないし、謎のまま終わるケースの方が多いかもしれない。
この連載を始めてすぐの頃、泣き止まない赤ちゃんを前に出来る事は「自分と子どもを信じること」だと書いたが、成長と共にもう少し具体的なアップデートが必要になってくる。

試行錯誤が続く日々だが、まず確実なのはすぐに「うるさいっ!」と叱りつけることが絶叫を最大化させる最も効率的な方法である事だ。息子の場合、この方法を使えば渋谷公会堂クラスのホールでもアカベラで声を届けることが出来るのではないかと思われるので、そんな場合は即座に思い切り「うるさいっ!」と言えば良い。しかし、そんな状況はまずないだろうし、どちらかと言えばなるべく早く泣き止んで欲しいというのが多くの養育者の気持ちだろう。

そこで実践してみたこと、それは「待ってみる」である。
前へ前へと進むことや、効率を重視して時間を短縮することがもてはやされる時代に逆行するようなことだが、これは見逃していたポイントかもしれない。「待つ」と言ってもただ待っているわけではなく、細かく段階的に「待つ」を分解してみることにした。
以下が自分が考えて実践している5つの「待つ」プロセスである。

1、子どもの状態を確認する。
2、同じ向きに視線を揃える
3、ウンウンとひたすらうなずく。
4、伝えたいことがあるのか聞いてみる。
5、思いつく提案をしてみる。

この5ステップである。
これをした結果どうにもならない場合にのみ「うるさいっ!」と言うことになる。(←結局言うのか)。

1の客観的に子どもの状態を確認するというのは、身体的な異常がないかを見るという意味である。痛がっている、怪我をしているなど、何か身体に異常がないかを確認し、もし何かあったら病院に行くなどの対処をする。そのためにかかりつけの医療機関や休日、夜間などでも対応してくれる救急の窓口などを事前に調べてわかりやすい場所にメモなどを置いておくと安心材料が増える。まずは身体に異常がないことが確認出来たら、謎への対処を始める。

2の視線を揃えるは、まずは子どもに向き合わず、隣に座るなどして同じ方向を向くということである。これは養育者といきなり対峙してしまうことを避ける方法であり、意外に良い結果が生まれることが多い。向き合って対峙すると絶叫の直撃を受け、養育者のダメージも大きくなるのでそれを回避する意味でも有効である。これは以前おんぶ紐を紐解き過ぎた時に知った「共同注視」の実践である。この時に叩かれたり噛みつかれたりすることがあるが、その場合はまず子どもに危険がないようにし、つかず離れずの距離を取りながら見守る。

3のひたすらうなずく。これはとにかくなんでもいいので泣いていることを受け入れる用意があることを認識してもらう作業である。「うんうん、そうだね」などと言っているとだんだん落ち着いてくることが多いが、これには少し時間が必要であり、ここを待てるかが正念場でもある。
絶叫している子どもはフルスピードで走ってきたブレーキが壊れた車のようなものである。早く止めたいあまり正面に立ちはだかると、衝突して双方がダメージを受けるので、並走しながら徐々にスピードを落とすイメージである。

4の「聞いてみる」は、ここでようやく何が不満なのか、要求がなんなのかを聞いてみるということだ。「どうしたの?」「何がしたいの?」「教えて」などと話を聞かせて欲しいことを伝える。うまくいけばここで要求が引き出せる場合がある。

5の提案は、子どもの要求が引き出せなかった場合、「ジュース飲みたかったの?」「りんご?」「トーマス?」などの思い当たる具体例を挙げてみることである。
この時点で「違う」「バイバイ」「いやだ」などと反応が返ってくればコミュニケーションが一応成立していることになるので、謎への扉は半分開いたようなものである。運よく提案が受け入れられた場合は交渉成立になり、絶叫は回避出来るだろう。

このプロセスを経てもどうにもならない場合のみ、初めて「うるさいっ」と言っても仕方がない状況になるが、この状態になるまでになんらかの解決に向けての交渉が進んでいることが多い。

「待つ」と言ってもただ放置するわけではなく、「うるさい!」「静かにしなさい!」という前に、この5つのステップがあるということを自分に言い聞かせておくと、順を追って対処していくことになるので時間がかかるのである。自分の場合はこのような絶叫対策マニュアルを組み立てたことで、かなり冷静な対処が可能になった気がしている。

もしも日々育児に疲れ果て、子どもの絶叫スイッチが入るとすぐに「うるさいっ!」「やめなさい!」と言ってしまうような状態になってしまったら、一度試してみて欲しい。
ちなみにこれは子どもだけでなく、2歳児のような大人にも応用できる方法である。

それでも泣き止まない場合は、あきらめることも大切だ。
大人だって子どもだって、意味もなくただ泣きたいことだってあるだろう。そんな時は一緒に泣いてみるのもいいかもしれない。わーん。

(by 黒沢秀樹)

※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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